日本の技術者が中国に流出する理由:千人計画の実態と影響

    1. 中国経済・社会

    中国への日本技術流出が続いています。日本国が、日系企業が投資して築き上げた技術と人材がドンドン中国に流出しているのです。

    それにしても、なぜ日本の研究者は住みやすい日本ではなく、決して住みやすいとは言えない中国での研究を選ぶのでしょうか?

    日本の技術者が中国に流出する理由:千人計画の実態と影響

    中国の千人計画

    これは知っておられる方も多いと思います。中国は中国の技術力向上を目的とした次の計画を以前から実施しています。

    hǎiwàigāocéngcìréncáiyǐnjìnjìhuá

    海外高层次人才引进计划

    海外ハイレベル人材招致計画

    通称では「千人計画」(千人计划:qiānrénjìhuá)とも呼ばれている計画です。世界中の名だたる学者を中国に招致して、中国の技術力を世界トップにのし上げようという計画です。

    この計画を政府が前面に打ち出した結果、言い換えると海外人材招致のために政府予算が大量に割り当てられた結果、外国諸国が経費をかけて育ててきた貴重な人材が中国に流れ込むことになったのです。

    卒業式のガウンを着た男性がドル記号の付いたバッグを持ち、中国 (中国) の経済的繁栄を表しています。

    招聘費用の違い

    日本や外国諸国で一流といわれる教授や科学者たちも、定年になれば退職を迎えます。天下り先への就職もできるかもしれませんが、現役時代と比べるとお給料は人並みになるでしょう。

    そこで退職が近づくと外国諸国から「うちの大学で〇〇というポストを用意している。毎年△△のお給料を出すので来てくれないか」という誘いが来るわけです。

    いろいろな大学からお誘いがあり、日本の天下り先よりはお給料がいいのですが、何と中国の大学からの招聘額は諸外国の約3倍です。

    日本の技術者は老後を優雅に過ごすためにもいいと感じますし、何よりもその額はそれだけ自分の持っている技術を高くかってくれている証拠と感じます。それで多く人材が中国の大学への流出していくわけです。

    手を上げた中国出身の年配の男性。

    中国の大学に行ったものの…

    中国の学生たちに自分の持っている技術を教えよう。その最先端の中国の大学でまだまだ動けるうちに自分が研究したいことをさらに極めよう。と感じますが実際にはどうなのでしょうか?

    中国の大学が大量のお金をはたいて海外のハイレベル人材を招致するのは、実はその研究者たちが持っている技術を学生たちに分け与えてほしいからなのではありません。

    もちろんのこと、その研究者が自分がしたい研究の環境を整えてくれるわけでもないのです。

    大学が外国の一流研究者を招致するのは次の理由です。

    huòdéguójiāzhòngdiǎnjīngfèizīzhù

    获得国家重点经费资助

    国からの重要拠点大学としての研究費を獲得すること

    中国の大学は外国から一流の大学教授や研究者を招致できると、国から重要拠点大学として膨大な研究費を受け取ることができるようになります。実はこれが大学の一番の狙いです。

    せっかく日本から夢を抱いて中国にわたってきたものの、大学側から与えられる仕事はほとんどなく、ただただ時間を過ごすだけの生活となるわけです。

    夢とは違う老後

    家族の生活のために、そして自分の技術を最大限に生かすために中国へ渡ったもの、結局は中国のお金第一主義の考え方に踊らされ、静かに生活を送るだけなのです。

    いくら才能に恵まれていたとしても、研究のために母国を犠牲にする決意をしても、自分がやりたい研究を行う環境を整えるのは今の世の中では難しいというわけですね。

    中国にはなぜ学者がいないの?その深~い理由

    中国はさらなる経済発展のために、現在、日本・アメリカ・ヨーロッパから一流の学者たちを呼び寄せています。

    彼らは中国に着くと不思議に思います。どうして中国には経験を積んだ学者がいないのだろう?それには特有の深~い理由があるからなのでした。

    中国に学者がいない理由

    毛泽东(máo zédōng)は中華人民共和国を設立させた英雄です。中国の紙幣はみ~んな毛沢東であることからそれは明らかでしょう。

    でも中国国民は英雄の彼でも一度大きな失敗をしたことを知っています。それが「文化大革命(wénhuà dàgémìng)」です。

    この文化大革命がおきたので、中国に50歳以上の学者は存在しません。中国の状況をよく理解するために近年に起きたこの文化大革命を知っておきましょう。

    文化大革命が学者たちに及ぼした影響

    文化大革命は1965年から約10年間起きました。

    文化大革命は簡単に言うと、毛沢東がが始めた「権力を持っている人とたちが正しいとは限らないので、みんなで彼らを打倒しよう」と運動です。

    まじめに科学や文学を追及していた先生や学者たちはどうなりましたか?中国語で紹介しましょう。

    yǒu yì tiān tūrán xuésheng mén guòlái suíyì pīdòu lǎoshī , zhémó lǎoshī

    有一天 突然学生们过来随意批斗老师,折磨老师.

    どういう意味でしょうか?まず有一天(yǒu yì tiān)ですが、tiān)は中国語で日を意味しますよね。

    (yǒu)は動詞として使うときは「~がある」の意味なのですが、名詞の前につくときは漠然としたもの指す名詞となります。

    日本語でも「昔むかし、ある日のことの…」の「ある」が漠然としたある一日のことを指すのと同じですね。

    文化大革命後の「ある日」、どんなことが起きたのでしょうか?

    革命

    まず「突然学生们过来」(tūrán xuésheng mén guòlái)となります。

    これは漢字を見れば意味が分かりますね。そうある日「突然、生徒たちがやってきた」のです。

    そして生徒たちは先生になにを行ないましたか?2つの事を行ないました。

    随意批斗老师「批判しながら、闘争すること」

    まずは随意批斗老师suíyì pīdòu lǎoshī)します。

    随意suíyì)というのは「気の赴くままに」とか「適当に」という意味になります。批斗pīdòu)は動詞で、「批判しながら、闘争すること」を意味します。

    似た動詞で批评(pīpíng)というのがあります。批评は口で批判するだけですが、批斗は口だけではなく実力行使にでます。つまり「先生に詰め寄り、思いつくかぎりの批判、罵倒を浴びせます」。

    折磨老师

    詰め寄って批判、罵倒するだけでなく何をしましたか?折磨老师(zhémó lǎoshī)をしました。

    折磨zhémó)というのは肉体的・精神的にも痛めつけるという動詞です。

    つまり文化大革命のときには中国各地で「突然生徒たちが先生のところにやってきて、先生たちを公然と批判しながら痛めつける」ことが行なわれたのです。

    先生たちはどうなったか?

    生徒たちから制裁を受けた先生たちはどうなりましたか?

    なんせ当時の国家が支持している造反行為ですので、制裁を受けた先生はみな職を追われました。農村に連れて行かれ、鉄道造りや穴掘りなどの強制労働につかされたのです。

    この結果1965年からの10年間、中国全土で教育がまったくストップしてしまいました。

    今ごろトップ学者として大活躍しなくてはいけなかった人たちは、20代30代のもっとも重要な時期にまったく研究ができなかったので、中国には一流の学者が育っていないのです。

    主席

    习近平と文化大革命

    习近平(xí jìnpíng)

    当時、制裁を受けた先生の子どもたちも攻撃の対象となりました。今や中国のトップの习近平(xí jìnpíng)もその一人です。

    お父さんが先生をしていたので、被歧视(bèi qíshì)つまり「差別的な扱い」を受けました。

    父親と一緒に差別的な扱いを受け、強制労働につかされす。彼は当時のことをこのように言っています。

    shénme kǔ dōu chī guò

    什么苦都吃过

    什么(shénme)は「何」「どんな」という意味、「」()は味の「苦い」という意味もありますが、この場合は苦労の「苦」です。dōu)「全部」という意味ですよね。

    吃过chī guò)は直訳すると「食べたことがある」となります。

    つまり、若いときは「どんな苦労も全部経験した」と述べているのです。

    習近平はもともとお金持ちの家庭に育ったのですが、文化大革命のときに貧乏、肉体労働、差別といろいろ苦労を味わったので、老百姓(lǎobǎixìng)、つまり「庶民」の気持ちが分かると言われています。

    学者がいなくなった影響と革命後の現在

    中国の将来を支えるはずの学者が、文化大革命の影響でまったく研究できませんでした。中国は鉄道や車の開発などの点でしばらくの間外国から遅れを取りました。

    しかし毛泽东(máo zédōng)から邓小平dèng xiǎopíng)に時代へと変わりました。

    文化大革命の反省を十二分に活かし、共産主義体制を維持しながらも、資本主義のような自由競争を取り入れ、今やアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国となったわけです。

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