眼光鋭く勇ましい虎、色鮮やかな牡丹、色とりどりの花鳥、向かい合う鳳凰と龍、池を泳ぐ鯉の群れ。華やかな刺繍に魅せられたのは皇帝だけではありません。
これらを題材にした中国刺繍は今に至るまで人々を魅了し続けています。
華やかな中国刺繍に魅せられて: 中国伝統の刺繡技術と歴史
中国が誇る伝統工芸
中国に行った経験がある方なら、チャイナドレスやチャイナシューズの模様、中国土産の小物、中国人の婚礼用品、絵画のように額縁に収まった室内装飾品など、生活の至る所に中国刺繍が施されているのに気づかれたのではないでしょうか?
中国刺繍は中国が誇る伝統工芸の一つです。中国語で刺繍は「刺绣」(cìxiù)、「针绣」(zhēnxiù)、また「绣花」(xiùhuā)とも呼ばれます。
ご存知のように古代世界で最も早くから養蚕による生糸生産を始めたのが中国です。生糸、さらには絹織物が生産されるにつれて「刺绣工艺」(cìxiùgōngyì 刺繍工芸)も発展するようになりました。
こうして華やかな刺繍工芸品は身分や地域の差を超えて人々に愛され、服飾だけでなく日常品の装飾に至るまで用いられるようになったのです。
刺繍の始まり
中国刺繍の始まりには幾つかの説がありますが、「苏州」(Sūzhōu 蘇州)に伝わる伝説をご紹介しましょう。
Yǒuyīgecōngyǐngpiàoliang de gūniang,
有一个聪颖漂亮的姑娘,
zàijiéhūnqiánzhèngzàizuòjiànxīnniánglǐfúshí,
在结婚前正在做件新娘礼服时,
yībùxiǎoxīn,jiùzàiyījīnshàngjié le yīgedòng,
一不小心,就在衣襟上截了一个洞,
tā jízhōngshēngzhìyòngcǎiróngxiù le yīduǒxiǎohuā,
她急中生智用彩绒绣了一朵小花,
zhè bùjǐnkěyǐjiāngpòdòngyǎngàizhù,
这不仅可以将破洞掩盖住,
érqiě háixiǎndegéwàipiàoliang,qǐ dào le jǐnshàngtiānhuā de xiàoguǒ。
而且还显得格外漂亮,起到了锦上添花的效果。
ある賢くて美しい娘が、結婚前にちょうど花嫁衣裳を急いで作っていた時のことです。うっかりして襟元に穴を空けてしまったのです。とっさに知恵を働かせた娘は、刺繍用の絹の色糸を取り出し、そこに一輪の小さな花を刺繍しました。
するとそれは空けてしまった穴を隠すだけでなく、ことのほかきれいに映り、美しい花嫁衣装をさらに美しくする効果を発揮したのです。
これを見た周囲の人々は我も我もとそれに倣い、こうして衣服に刺繍が施されるようになったのだそうです。
地方や民族の特色を反映
刺繍はかつて「女红」(nǚhóng 女性が携わる仕事)の一つだったので、少女たちは幼い時から針の進め方や様々な刺繍法を母や祖母に教わりました。
結婚する時には自分で刺繍して作った花嫁衣装や布団を持参し、刺繍の腕前を披露することになったのです。そのため器量よしの娘より、刺繍の上手な娘の方が好まれともいわれています。
このように民間で刺繍法が発達していき、各地で特徴ある刺繍法が編み出されていきました。また漢民族はもちろん、他の少数民族にもそれぞれに特徴のある刺繍法があり、個性豊かな味わいを見せてくれています。
衰退の時代を乗り越えて
湖北省や湖南省から出土した服飾品から、戦国時代や漢時代には既に高度な刺繍技術があったことがわかっています。また明王朝や清王朝の時代には宮廷の保護を受け、皇族や高官の服飾に大いに用いられ、さらに発展を見せました。
ところが近代になると状況は一転し、中国刺繍は苦難の時代を迎えました。というのも清王朝末期から中華民国時代の社会の動乱のために人々は生き抜くことに必死で、とても刺繍をするどころではなかったのです。
また文革時代には刺繍業自体がほぼ停止し、一時的に中国刺繍は衰退してしまいました。
中国刺繍の復活
それでも中国刺繍の価値は失われませんでした。経済発展と共に、より自由なモチーフを基に刺繍ができるようになり、新しい刺繍法も開発されています。
例えば2009年に「专利」(zhuānlì 特許)を取った「金丝线羽毛绣」(jīnsīxiànyǔmáoxiù)は羽毛と金色の糸で施された立体的に見える刺繍法です。花鳥、動物、文字など、まるで絵画のような出来栄えで大変人気があります。
また骨董収集愛好家も刺繍製品に注目しています。なぜなら刺繍は色落ち、変色、腐食などの影響を受けやすく、保存するのが大変難しいため、もし名品が発見されたとなると他の収蔵品の比にならないほどの高額で取引されるのです。
まとめ
中国土産で刺繍を見たら、どの地方のものか教えてもらうのも楽しいかもしれません。数ある中国刺繍の中でも特に有名な「四大名绣」(sìdàmíngxiù)。