感染症が蔓延した時の中国の対応力は世界的で注目されました。世界各国に先駆けて導入した健康コード制度は大きな力を発揮し、感染症蔓延防止に役立ったのです。
しかし同時に健康コードは中国内にいる外国人にとっては、大変な不便をもたらしました。
中国「健康コード」便利さと紙一重
目次
健康コードとは?
中国国内で導入された健康コード(健康码:jiànkāngmǎ)というのは、感染症にかかっているリスクが表示されるソフトウェアの事です。
感染症が蔓延している時に、中国に住んでいるすべての人は任意でインストールするように各地方政府から要請されました。
ソフトウェアをインストールして個人情報を登録すると、ソフトウェア内に個人のQRコードが割り当てられます。
QRコードは緑色(绿码:lǜmǎ)、黄色(黄码:huángmǎ)、赤色(红码:hóngmǎ)で表示されるのですが、それは毎朝ソフトを開いた時に答えた健康アンケートの内容と、今までの渡航歴に基づいて表示されます。
健康コードの提示が必要な場所
感染対策がなされている区域において健康コードは様々なところで必要です。
例えば警戒レベルが高い時はバス(公交车:gōngjiāochē)や地下鉄(地铁:dìtiě)などの交通機関に乗るときに見せなくてはいけません。
スーパーで買い物するときや会社のオフィスビルに入るとき、さらにはマンションの入り口を通るときさえ必要なのです。
任意のソフトではありますが、個人の健康コードを持ってない人は、そうしたところですべて門前払いを食らってしまいます。そう、事実上健康コードなしでは中国で生きていけない状況が生じています。
健康コードが緑でないと…
といっても政府の要求通り、きちんと個人情報を登録し緑色の健康コードを表示できれば問題ありません。ほとんどの人の健康コードは緑色です。
緑の健康コードが表示されていると、大手を振って街中に出歩くことができます。国から「あなたは感染症の危険がありません」という保障をもらったようなものだからです。
しかし黄色もしくは赤色の時は、大変です。黄色の場合は1週間の自宅隔離、赤色の場合は2週間の自宅隔離が義務付けられているので、もし外に出て黄色や赤色だとたちまち通報され、警察が来て自宅に戻されます。
健康コードの弊害
健康コードの弊害は、すべての人間の行動情報が国に把握されることです。どこで買い物に、どこに出張や旅行に行ったなどのプライベート情報(个人隐私:gèrényǐnsī)はすべて政府に掴まれることになります。
外国人がお小遣い稼ぎで言語学校で教えていたり、イスラム教徒がある特定の場所で礼拝を行っていたりすると、そういう情報もすべて中国政府に掴まれることになるので、中国に入れなくなるというわけです。
中国国民は以前より、このすべての行動パターンを政府に掴まれるという完全管理を受け入れていました。ですが中国にいる外国人はこれほどの管理を受けることに慣れていないので、かなり抵抗があるようです。
中国で生活するとは
中国で生活するのは、以前の記事でも触れられたように、完全に中国政府の管理のもと生きることを意味します。
政府はその気になれば、監視システムやネット情報を駆使して、個人の居場所や行動だけでなく、嗜好や思想までも掴めるからです。
しかしこれほど完全に国民一人を管理できるからこそ、感染症の抑え込みに成功したのかもしれませんね。
※2021年7月の情報です。
日本はとっても個人情報管理に厳格な国家です。ところが個人情報に関する見方は各国家まちまちです。中国ではどのように個人情報が管理されているのでしょうか?
中国国民の個人情報の考え方
中国国民には個人情報を守らないといけないという見方はありません。
中国版のLINEである微信(wēixìn)の番号は結構簡単に教えてくれますし、携帯電話番号さえもよほど変な人と思われない限りさほど抵抗なく人に教えます。
中国で個人情報保護が重視されていないことは、国民にとって益と弊害両方を引き起こしています。
個人情報管理が厳しくないことの益
個人情報管理がうるさく言われない中国では、個人の情報のやり取りが企業間で簡単に行えます。
たとえば先ほどの微信(wēixìn)というコミュニケーションツールには、微信钱包(wēixìnqiánbāo)という電子マネーがあるのですが、企業間の交渉でとっても簡単に登録できるようになっています。
電子マネーを銀行引き落としにする手続きも、すでに持っている銀行を選んで、スマホの中で銀行の密码(mìmǎ)、つまりパスワードを入力するだけ、ほんの30秒で設定できてしまい便利です。
【電子マネーの使える場所】
この電子マネーはどこで使えますか?中国でモノを売っているところなら、どこででも!使えます。
「どこででも」と書きましたが、おおげさではありません。その辺で農村から野菜を持ってきて売っているおばちゃんに微信钱包(wēixìnqiánbāo)で払ってもいいか?と聞くと「あ~いいよ」という返事が返ってきます。
おばちゃんの携帯の微信QRコードをスキャンして金額を入力すればお金が払えてしまいます。中国全土で電子マネーがどこでも使えるのでとても便利です。
本当にいたるところで使えるので、最近の中国人の大学生は現金を持ち歩かないほどです。
個人情報が厳しくないことの弊害
個人情報管理が厳しくないおかげで、電子マネーが自由に使えて本当に便利なのですが、同時に弊害も生じています。なぜなら、自分が料金を払ったところすべてで自分の微信の情報が漏れるからです。
自分の微信情報は本人の許可なしに他の人に公開することもでき、個人のプライバシーは簡単に広がってしまいます。
自分の情報が他の人に自由に流れていくだけではありません。中国に行く日本人が覚えておいたほうがいいのは、それらの情報すべてが国家に流れているという点です。
中国政府の個人情報管理
中国政府による個人情報の管理を最後に考えましょう。例を挙げます。ある人が朝起きて友人にSNSでメールします。その後スーパーに行って買い物をし、午後はネットカフェで遊びます。
夜は聊天室(liáotiānshì)つまりネット上の「チャットルーム」で同じ趣味を持つ人だけと秘密の会話をします。週末はバスで隣りの大都市まで移動し、帰りは列車で帰ってきます。
中国国家はすごいことに、これらすべての行動の一举一动(yījǔyīdòng)つまり一挙手一頭足をすべて掴んでいます。なぜでしょうか?中国語で表現しましょう。
【どうして中国政府は国民の一挙手一頭足が掴めるか】
yīnwèisuǒyǒu de qǐyègēnzhèngfǔhézuògèzhǒnggèyàng de fāngfǎzhǎngwògèrénxìnxī .
因为所有的企业跟政府合作.各种各样的方法掌握个人信息.
「なぜなら」(因为:yīnwèi)、「すべての企業」(所有的企业:suǒyǒu de qǐyè)は必ず「中国政府に協力」(跟政府合作:gēnzhèngfǔhézuò)する必要があり、すべての顧客との情報を中国政府に提供するからです。
よって中国政府は、「ありとあらゆる方法」(各种各样的方法:gèzhǒnggèyàng defāngfǎ)で个人信息(gèrénxìnxī)「個人情報」を「~をつかむ」(掌握:zhǎngwò)ことができます。
【どのように個人情報をつかんでいる?】
先ほどの例を元に中国政府がどのように個人の個人情報をつかんでいるのか解説しましょう。
朝起きて打った短信(duǎnxìn)つまり携帯の「ショートメール」の内容はすべて政府に保管されています。
スーパーで買い物をしたときに微信钱包(wēixìnqiánbāo)を使うと、誰が何時にどこで何を買ったかがすべて国家が知るところとなります。
ネットカフェの利用、長距離バスの乗車、列車の利用では身份证(shēnfenzhèng)つまり「身分証明書」の提示が義務付けられています。
つまり中国政府は調べようと思えば、中国にいる人の行動すべて、趣味や思想までをも掴むことができるのです。
まとめ
中国というのは個人情報の保護が厳格でなく、堅苦しさはありません。さらに電子マネーはどこでも使えてとっても便利です。
けれども中国で生活するということは、自分の行動をすべて国家に提供していることになります。2万人を超えるといわれるネット警察がおり、ネット上の会話はすべて、厳しく監視されています。
しかし決して日本との違いゆえにやり方を批判することのないようにしましょう。なぜなら中国政府がそのようにするのは、プライバシーを侵害したいのではなく、国民が平和に生活できるようにするために暴動の芽を事前に摘むためだからです。