中国には民族や地方毎にいろいろな民謡があります。その中でも山西省や陕西省の周辺に広がる黄土高原地域で歌われてきた伝統音楽が「陕北民歌」(shǎnběimíngē)。
人気の音楽番組でも披露され、今でも老若男女に大変人気のジャンルです。一体どんな民謡なのでしょう?
黄土高原の歌声、中国の民謡「陝北民歌」の魅力とは?
自然の中での労働から生まれた民謡「山歌」
「山歌」(shāngē)
中国の民謡は中国語で「中国民间歌曲」(Zhōngguómínjiāngēqǔ)または「民歌」(míngē)です。
民謡は日常生活や労働の様々な場面で歌われてきましたが、特に野山での労働生活の中で生まれた民謡が「山歌」です。
大自然の中で柴を刈ったり、田畑で農作業をしたり、野山や高原で放牧したりしながら心の奥の感情を伝えたり、遠くにいる相手に向けて語り掛けるかのように歌ったりするのです。
心地よく伸びやかな、突き抜けるような高音が、率直で誠実な気持ちをあくまでも簡単な表現で伝える素朴さが山歌の魅力です。
山歌は大きく「北方山歌」(běifāngshāngē)と「南方山歌」(nánfāngshāngē)の二つに分類され、「陕北民歌」は北方山歌に属します。
陕北民歌を代表する「信天游」
「信天游」(xìntiānyóu)
この陕北民歌には陜西省や河北省周辺の「信天游」、内モンゴル西部周辺の「爬山调」(páshāndiào)、山西省北西部の「山曲」(shānqǔ)などが含まれます。
歌の題材は多岐にわたりますが、何とその8割は「情歌」(qínggē ラブソング)です。陕北民歌の特徴を最も表わしているとされる信天游はそのほとんどが情歌なのですが、それには理由があります。
Shǎnběixìntiānyóu,shì xiàcéngshèhuìláodòngrénmínláozuòyú
陕北信天游,是下层社会劳动人民劳作于
shānyěgōuhèjiānyínchàngchū de yīzhǒngshāngē。
山野沟壑间吟唱出的一种山歌。
Yě shìshǎnběirénzài“nánrénzǒukǒuwài,nǚrénwākǔcài”de
也是陕北人在“男人走口外,女人挖苦菜 ”的
bēicǎnqīkǔ de shēnghuózhōngduìmìngyùn、rénshēng de xuānxiè。
悲惨凄苦的生活中对命运、人生的喧泄。
陕北地方の信天游は下層社会の労働者が山あいや谷間で働きながら歌った一種の山歌です。
またそれは陕北地方の人々が『夫は万里の長城以北地域に出稼ぎに行き、妻は家で苦菜を摘む。』といわれたほど、非常に苦しく惨めな生活の中で、その運命と人生に対するどうしようもない心の中の不満と怒りを吐き出したものなのです。
見渡す限り土色で生命の色がほとんど見えない黄土高原で、愛する妻や家族と離れて日夜肉体労働に明け暮れる夫、あまりの貧困で地面に這いつくばるように生えている苦菜をさえ摘まなければならない妻。
生活苦ゆえに離れ離れにならざるを得ない夫婦が、互いを思う気持ちと悲しみを広大な空に向かって誰に遠慮する必要もなく高らかに歌い上げる。これこそが陕北信天游の真骨頂なのです。
実際に聞いてみよう
1988年生まれの男性民謡歌手「苏文」(SūWén)は今、最も人気の民謡歌手の一人かもしれません。貧しい家に生まれ、家計を助けるために中学卒業後すぐに働き始めなければならなかった苦労人です。
近年TVで放送されている人気の音楽番組「中国农民歌会」(Zhōngguónóngmíngēhuì) や「星光大道」(xīngguāngdàdào) で好成績を収め、今や「农民歌王」(nóngmíngēwáng)の異名を取る実力派です。
また苏文の師匠筋に当たる「陕北歌王」(shǎnběigēwáng)の「王向荣」(WángXiàngróng)などベテラン歌手たちの歌う民謡をネットで聞くことができます。
陕北民歌の有名な曲目は「东方红」(dōngfānghóng)や「赶牲灵」(gǎnshēnglíng)があります。
信天游は「山丹丹开花红艳艳」(shāndāndānkāihuāhóngyànyàn)や「兰花花」(lánhuāhuā)、「走西口」(zǒuxīkǒu)などがの有名です。
まとめ
国の無形文化遺産の一つにもなっている陕北民歌ですが、最近では現代風にアレンジされたものも人気です。
原曲の良さは保持しつつも二胡の演奏にこだわらず、ピアノやアコーディオンなどを使った自由な編曲に音楽家が取り組み、進化を遂げ続けているのも現代人に受け入れられている理由かもしれません。
ご紹介したものを含め、いろいろな中国民謡を是非聞いてみてください。きっと民謡の出所となる地方へ旅をしたくなりますよ。