中国古代四大美男の一人に挙げられる蘭陵王は、6世紀の北斉時代の皇族です。
仮面を着けて戦う勇猛な将軍で、美形な上にわずか33歳の若さで悲劇的な最期を遂げたとあって人気が高く、なんと日本の雅楽の曲目にも出てきます。いったいどんな人物なのでしょう?
日本の雅楽になっている中国古代四大美男「蘭陵王」
「兰陵王」はモンゴル系美男?
兰陵王(Lánlíngwáng)
兰陵王の名は「高长恭」(Gāo Cháng gōng)です。
高一族は匈奴への奴隷服従の時代を経てモンゴル高原に興った遊牧騎馬民族の「鲜卑族」(Xiānbēizú)でした。つまり現在の中国東北地方から内蒙古一帯に住み、言語もアルタイ語系だったのです。
父の「高澄」(Gāo Chéng)には名前のわかっている妻が少なくとも9人いましたが、男兄弟6人の中で母の名が不祥なのは兰陵王だけです。
「音容兼美」(yīnróngjiānměi)と称されるほどの美声と美貌、その美貌を仮面で隠しながら将軍として幾度となく収めた戦場での勝利などの要素が、ミステリアスな魅力を伴って兰陵王の名を後世に残させたのでしょう。
紫の上も見た舞楽「陵王の舞い」
幾度も北周の攻撃を食い止めていた兰陵王は、ある時わずか500騎で敵の包囲網を突破して大勝利を収めます。兵士たちは仮面を着けて歌い踊り、勝利を祝いました。その歌が「兰陵王入阵曲」(Lánlíngwángrùzhènqǔ)です。
ところで源氏物語第四十帖「御法」の中に、光源氏最愛の妻である紫の上が主催した二条院の法会で「陵王の舞」が舞われたという記述があります。
この「陵王の舞い」は舞楽「蘭陵王」のことで、舞を「陵王」、曲を「蘭陵王」といい、竜頭を模した華麗な舞楽面を着けて舞います。高貴な人々が臨む席で上演される雅楽の演目として既に確立されていたのですね。
日本に残る原曲の匂い
「兰陵王入阵曲」は隋時代には宮廷舞曲になったのですが、唐時代になると玄宗の命令で禁止演目に指定され、時代と共に忘れ去られていきました。
ところが奈良時代に日本へ渡来した「林邑国」(Línyìguó チャンパ王国・現在のベトナム)出身の唐僧仏哲が教授した舞楽にこの曲が含まれていたのです。
Xìngyùn de shì,TángshíchuánrùRìběn de 《Lánlíngwángrùzhènqǔ》
幸运 的 是,唐 时 传 入 日本的《兰 陵 王 入 阵 曲》
bǎoliúle jǐfènzhēnshímiànmào。
保留了几 份 真实 面貌。
Rìběnrénjiāngqíshìwéizhèngtǒng de yǎyuè,géwàizhēnshì,
日本人 将 其视 为 正统 的 雅乐,格外 珍视,
duìqíbǎoliúhéchuánchéngyǒuzheyītàoshífenyángé de
对其 保留和 传承 有 着一 套 十分 严格的
“xímíng”yǔ“mìchuán”zhìdù。
“袭 名”与“秘 传” 制度。
幸運にも唐時代に日本に伝わった「蘭陵王入陣曲」は本来の様相を幾分残している。日本人はそれを正当な雅楽とみなし、とりわけ重要視したため、その保存と伝承のために非常に厳格な「襲名」と「秘伝」制度を有している。
血の争いが絶えない親族
兰陵王の一族は権力闘争に明け暮れていました。父「高澄」が29歳で暗殺された時、兰陵王はまだ8歳でした。父に代わり「北齐」(Běiqí 北斉)を建国したのが父の同母弟「高洋」(Gāo Yáng)です。
北齐は短命な王朝でわずか27年しか続きませんでした。この間、実質上皇位に就いた皇帝は5人だけ。
初代皇帝「高洋」、その息子の「高殷」(Gāo Yīn)、兰陵王の父「高澄」の別の同母弟「高演」(Gāo Yǎn)と「高湛」(Gāo Zhàn)、「高湛」の息子の「高纬」(Gāo Wěi)です。
彼らは兄弟間で王位をめぐって争い、その結果国を自滅させたのです。
最後の皇帝に妬まれて
身近な親族が血みどろの王位簒奪争いを繰り広げていた中で、兰陵王は忠実に皇帝を支え、敵軍との歴戦の日々でした。
とはいえ北齐最後の皇帝になった高纬にとって兰陵王は15歳年上の従兄であり、名声・人望・実績を兼ね備えた眉目秀麗な将軍です。猜疑心と妬みが悲劇の発端になりました。
「戦いで予想外の何かが起きたらどうするのだ?」と尋ねた皇帝に、兰陵王が「国事就是我们的家事。」(国家の大事は私たちにとって家庭内の事です。)と答えたのが失敗でした。
「皇帝になろうとしているのか」と言いがかりを付けられた兰陵王は毒酒を賜り、あわれ33歳で亡くなったのでした。
まとめ
日本では兰陵王を題材にした小説、ミュージカル、コミックやゲームがありますが、本場中国でもカードゲームやスマホのゲームアプリ、現代小説などになっています。
また2013年には「兰陵王」のタイトルで全46話の連続TVドラマが制作されており、同年度TVドラマベストテンの第6位にランクインしています。雅楽と比較してみるのもいいかもしれませんね。