中国古典文学に親しみたいと思っても、中国語で本を読んだり、京劇を見たりして理解するのはなかなか難しいですね。でも映像で見ると意外と楽しめるものです。
今回は中国古典文学の四大悲劇の一つ、「感天动地窦娥冤」をご紹介しましょう。
映像で親しむ中国古典文学の四大悲劇「窦娥冤」
「感天动地窦娥冤」の原作
感天动地窦娥冤(gǎntiāndòngdìDòuÉ yuān)
この作品は「窦娥冤」(Dòu É yuān)と略される場合もあります。
無実の罪(冤 yuān)を着せられた若い女性「窦娥」(Dòu É)が主人公で、元時代の戯曲家「关汉卿」(GuānHànqīng)が創作した「杂剧」(zájù)です。
話の筋は、前漢の史学家「班固」(BānGù)が編纂した「汉书」(hànshū)に含まれていた民間伝説の一つ「列女传」(liènǚzhuàn)をモチーフにしているとされています。
「杂剧」とは中国古典演劇の戯曲形式の一つですが、時代や地域ごとに発展しました。この作品はその中の「元曲」(yuánqǔ)に属します。
これは宋時代に始まり元時代に隆盛した雑劇と散曲の総称ですが、後に廃れてしまいました。
それでも人気作品だった「窦娥冤」は、2006年に国家無形文化遺産に登録された「秦腔」(qínqiāng 陜西省や甘粛省などの中国西北地区の伝統演劇)や、河南省地域で発展した「豫剧」(yùjù)の演目になっています。
ドラマや映画で楽しむ
ネット上では「秦腔」や「京剧」(Jīngjù)による「窦娥冤」の映像を公開しています。また2005年には「窦娥冤」のタイトルで全3話のドラマが制作されました。
さらに最近では2017年に「窦娥奇冤」(Dòu É qíyuān)のタイトルで映画化されています。こちらはわかりやすい現代語と美しい映像で楽しく鑑賞できるでしょう。
窦娥の生い立ちと事件のはじまり
窦娥は幼くして母を亡くし、科挙を受けるための費用を工面できない父親には「童养媳」(tóngyǎngxí 将来息子の嫁になるのを条件に幼女を引き取る)として売られてしまいます。
意地悪な姑の下で育ち、結婚後わずか二年足らずで夫の病死により若い未亡人になりました。それでも嫁として姑に尽くしている美しい窦娥と高利貸しをしている姑の財産に目を付けたのが、どうしようもないごろつきの「张驴儿」(ZhāngLǘr)です。
窦娥に言い寄ったものの、きっぱりはねつけられたのを恨みに思い、张驴儿は一計を案じました。数日後、たまたま体調が悪くなった姑のために窦娥が作ったスープに毒を盛ったのです。
先に姑を殺し、その後でその財産と窦娥の両方を手に入れようという魂胆でした。ところが突然吐き気を催した姑の代わりに、张驴儿の父親がそれを飲んで死んでしまいます。図らずも父親を殺してしまった张驴儿は、怒り心頭です。
無実の罪を着せられて
計画が失敗した张驴儿は、窦娥が意図的に毒を混入したと嘘の訴えを起こします。賄賂を受け取っていた「知府」(zhīfǔ 当時の地方最高行政長官)は、日夜ひどい拷問を加えて自供させようとするのですが、窦娥は決して妥協しません。
それで彼女の面前で高齢の姑を打ち叩こうとします。姑を苦しめれば孝行者の窦娥が諦めて無実の罪を認めると思ったのです。知府の思惑通り窦娥はやむなく偽りの自白をしてしまいました。
ただでは死ねない
公開斬首刑の直前、潔白を証明するために三つの奇跡が起きるよう、窦娥は天に向かって涙ながらに訴えました。
すると、なんとその言葉通り彼女の血は一滴も地面に落ちず、すべて刑場に張られた白い幕に飛び散りました。さらに、それは真夏の暑い日だったのですが、天気が突然急変し、彼女の遺体を覆うほどに大雪が降り積もりました。
その様子を見た人々は、彼女は本当に無実だったのだと言い合いました。しかもその地方は確かにそれから三年間の大干ばつに見舞われたのでした。
彼女の無実が証明されたのは、科挙に受かり役人になって戻ってきた窦娥の父親が事件を調査し、真実を明らかにしてからでした。张驴儿は死罪になり、貪欲な知府も相応の報いを受けたのです。
悲劇の背景
この作品は窦娥の冤罪事件そのものだけでなく、封建社会にみなぎっていた不公平を悲劇の本質として提起した意義が現代でも評価されています。
Yī gemǎnnǎozixiàodào、zhēnjié děnglúnlǐguānniàn de shànliángnǚzǐ
一个 满脑子 孝道、贞节 等 伦理 观念 的 善良 女子
bèiyīgedàlìtíchàngxiàodào、zhēnjié de shèhuìsuǒpòhàizhìsǐ,
被一个大力 提倡 孝道、贞节 的 社会 所 迫害 致死,
zhè caíshìDòu Éde bēijùsuǒzài。
这才 是 窦 娥的悲剧 所在。
親に尽くし、妻の貞節を守ることがすべてなのだと思っていた一人の善良な女性が、親孝行と婦女の貞操をとりわけ提唱していた社会に迫害され殺された、ここにこそ窦娥の悲劇があるのです。
まとめ
この作品が時代を経て生き続けたのは、現実社会の不正と腐敗に抑圧された人々の深い共感を呼んだからなのでしょう。