中国のテレビドラマでは多くの時代劇が放映されています。人気の作品は何度も再放送され、庶民の楽しみの一つになっています。
今回はその中から人気の喜劇「铁齿铜牙纪晓岚」シリーズをご紹介しましょう。少し古い作品ですがなかなか面白いですよ。
中国時代劇の新たな発見!「铁齿铜牙纪晓岚」で笑いと歴史を学ぶ
目次
铁齿铜牙纪晓岚シリーズ
(tiě chǐ tóngyáJì Xiǎolán)
この作品は第一部(計40話)が2000年に制作されたのを皮切りに、第二部(計43話)、第三部(計40話)、第四部(計42話)がそれぞれ2002年、2004年、2008年に制作されました。
とりわけ第二部は2002年度に制作された番組の中で最高の23%の視聴率を獲得しました。この作品のジャンルは「喜剧古装」(xǐjù gǔzhuāng)に分類されます。
オリジナルストーリーで主に喜劇ですが、実在した人物や歴史的な出来事を交えながら、時に悲劇やどうにもできない社会の矛盾も扱っています。
主な登場人物
中国語で主役級の俳優は「主角」(zhǔjué)といいます。また主役ではないものの主な役を担う俳優を「主演」(zhǔyǎn)と表記するために、テロップには複数の「主演」表記が流れることがあります。
纪晓岚(Jì Xiǎolán)
主人公。乾隆帝に仕える清廉潔白をモットーとした役人、学者。ユーモアにあふれ、情に厚く、困った人を見ると見捨てられない性質。
乾隆(Qiánlóng)
清王朝最盛期の第六代皇帝。文武両道の風雅人だが、纪晓岚と和珅を伴ってよくお忍びで街に出、民情を知ろうとする。
和珅(HéShēn)
乾隆帝に仕える最高位の大臣。飽くなき貪欲ゆえに数々の悪事を働いているが、得た富で乾隆帝をも富ませているため纪晓岚が和珅の悪事を暴いても乾隆帝はなかなか罰を与えない。
上記の三人は歴史上の実在人物です。ドラマの中では张国立(Zhāng Guólì)、张铁林(Zhāng Tiělín)、王刚(Wáng Gāng)の三俳優がそれぞれ纪晓岚、乾隆帝と和珅を演じ、一世を風靡しました。
巧みな話芸
タイトルには「铁齿铜牙」とありますが四文字熟語ではありません。
人はいいけどお金はないし、実権もない、でも機転が効き、弁は立つ主人公の纪晓岚が、言葉だけでいかに巧みに悪事を暴き、弱きを助けるかという主要テーマを表現する造語です。
とはいえ、たしかに张国立、张铁林、王刚のスピード感あふれる台詞は、ユーモアにあふれており、声帯模写や京劇の台詞回しなどもあるため、まるで冗談のやり取りをする「相声」(xiàngsheng)を見ているようだとの評価もあります。
大抵のドラマや映画では「配音员」(pèiyīnyuán)と呼ばれる声優が役者に代わって台詞の吹き替えをしていることが多いのですが、このドラマの三主役はそれぞれが話芸に秀でた芸達者なので、いずれも本人の声で出演しています。
また台詞の中には「对联」(duìlián)や「猜谜语」(cāimíyǔ)もたくさん出てくるので、中国語ならではの笑いの話芸を味わうこともできます。
人気の理由
【清官(qīngguān)と贪官(tānguān)を両立させるストーリー】
どのシリーズも約8話で完結する小ストーリーを中心に、全体をまとめ上げるパターンになっています。
大体のパターンは、清廉潔白で正義と庶民の見方である清官の纪晓岚と、貪欲で金を儲けることに目のない贪官の和珅という天敵関係にある二人の優秀な部下を、結局は乾隆帝がうまく利用する流れになっています。
これは周囲の不公正に対する不満に同情しながらも、必要悪を許容せざるを得ない中国社会の縮図なのかもしれません。
Gāi jù tōngguò Jì Xiǎolán gāng zhēn shǒu zhèng、bǐnggōng zhífǎ de wúsī pǐnxìng,
该剧 通 过纪 晓岚 刚 真 守 正、 秉公 执法的无私 品性,
Qiánlóng de jūnzhǔ zhèngzhìjiā xíngxiàng,yǐjí Hé Shēn wéi mìng shì cóng、tān zāng wǎngfǎ de zuǐliǎn,
乾隆 的 君主 政治家 形象,以及和 珅 惟 命 是 从、贪 赃 枉 法的 嘴脸,
wéirào zhezhè sān rén zhī jiān,chǎnshēng le yímùmù lìng rén chángxūduǎntàn de bēixǐjù。
围绕 着 这 三 人 之 间,产生 了 一幕幕 令 人 长 吁 短 叹的 悲喜剧。
このドラマは纪晓岚の正義を固く守る態度と公平に法を執行する無私の性格、乾隆の君主政治家としての姿、そして唯々諾々と命令に従いつつも、法を曲げては賄賂を貪る和珅のやり口を通して、三人の間を巡って生まれる、思わずほろりとしてしまう悲喜劇である。
2017年に纪晓岚役の张国立が「来年には第五部の制作に入る」と予告したというニュースが流れましたから、そろそろ新作を見ることができるかもしれませんね。今度はどんなドラマになるのでしょうか。楽しみです。
中国時代劇ドラマでよく出てくる文字狱とは?
中国の数ある時代劇ドラマでよく出てくるのが「文字狱」です。主人公や主要な登場人物の過去にかかわる事件として取り上げられる場合も少なくありません。
文字狱そのものは過去の話ですが、背景を知っておくと中国の言論に対する理解が深まるかもしれません。
文字狱-濡れ衣がほとんど?
文字狱(wénzìyù)
文字狱は日本語で「文字の獄」(もんじのごく)と表し、「中国の諸王朝、特に清王朝時代に起こった数々の筆禍事件の総称」です。
専制政治の統治者は反政府の知識人を迫害する目的で、彼らの著作物の中から国家反逆に当たるとみなされる字句を故意に探し出して罪に問い、逮捕して厳罰を科しました。
故意にですからほとんどは「冤案」(yuān’àn 濡れ衣)です。文字狱の対象は王朝に反対する文人だけとは限りません。同族内で出世の邪魔になりそうな競争相手を陥れるとか、後継者争いの芽を摘むために罠を仕掛ける場合もあったようです。
言論の自由が強烈に迫害された暗黒時代
古代中国の多くの王朝に文字狱の記録がありますが、中でも多くの回数にわたり、厳しい取り締まりを施行したのが清王朝です。「满族」(Mǎnzú 満州族)によって建国された清王朝はこの分野で相当に敏感でした。
「言论检查官」(yánlùnjiǎncháguān 言論検査官)を任命して文書を検閲させ、政治に批判的な文章を著した「汉人」(Hànrén 漢民族の人)を弾圧・大量処刑したのです。
Qīngdàihuángdìdàshīwénzìyù,mùdìzàiyúyāzhìHànzúrén de mínzúdúlìfǎnkàngyìshí,
清 代 皇帝 大 施 文字狱,目的 在于 压制 汉族 人的 民族独立 反抗 意识,
shùlì Qīngcháotǒngzhì de quánwēi,jiāqiángzhōngyāngzhuānzhìjíquán,
树立 清 朝 统治 的 权威,加强 中央 专制 集权,
zhè zhǒngwénhuàzhuānzhìzhèngcè,zàochéngshèhuìkǒngbù,jìngù le sīxiǎng,cuīcán le réncái,
这 种 文化 专制 政策,造成 社会 恐怖,禁锢了 思想,摧残 了 人才,
yánzhòng zǔ’ài le Zhōngguóshèhuì de fāzhǎnhéjìnbù。
严重 阻碍 了 中国 社会 的 发展 和 进步。
清王朝の皇帝たちが文字狱を繰り返した目的は、漢民族の独立反抗意識を抑えつけ、清王朝の統治権威を樹立し、中央専制集権を強化することにあった。
この文化専制政策は社会恐怖をもたらし、思想を強制的に制限し、優秀な人材を大勢失わせたため、中国社会の発展と進歩を甚だしく阻害した。
「康雍乾盛世」(KāngYōngQiánshèngshì)といえば清王朝が最も安定・繁栄し、皇帝の統治期間も大変長い時代です。この三皇帝が主役、もしくは主要人物の時代劇ドラマは少なくありません。
ところが皮肉なことに文字狱を実施したのは、「康熙帝」(Kāngxīdì)と「雍正帝」(Yōngzhèngdì)がそれぞれ20回余り、そして「乾隆帝」(Qiánlóngdì)はなんと130回余りにも及びます。
文字狱に絡んだドラマ
铁齿铜牙纪晓岚の文字狱
铁齿铜牙纪晓岚(tiěchǐtóngyáJìXiǎolán)
文字狱に絡んだドラマを少しご紹介しましょう。「铁齿铜牙纪晓岚」第一部の第13話では主要登場人物の「四姑娘」(Sìgūniang)が、乾隆帝による文字狱で実父が濡れ衣を着せられた経緯を明かしています。
また第15話から20話に及ぶ1クールでは、乾隆帝に禁書処分を受けた中国四大著作の一つ「红楼梦」(hóng lóumèng)にまつわる物語を扱っています。
言論と思想の自由を求めて
同じく乾隆帝による文字狱を扱っているのが、放映時に最高視聴率最高65.95%をマークした大人気TVドラマ「还珠格格」(Huánzhū gégé)第二部の後半と続編の第三部です。
ひょんなことから乾隆帝の養女になったおてんばで天真爛漫な主人公「小燕子」(xiǎoyànzi)は物心がついた頃には既に孤児でした。ところがずっと後になってから、乾隆帝が行った文字狱のせいで両親と一族を失っていたという衝撃の事実を知らされるのです。
自ら脚本も手掛けた作者の「琼瑶」(QióngYáo)は、このドラマの中で大変印象的な台詞を書いています。
Wénzìyù shìměicháoměidàidōuyǒu de shì,shìměiyīgedìwángduì“sīxiǎng”detǒngzhì。
文字狱 是 每 朝 每 代 都 有 的 事,是 每 一个 帝王 对 “思想” 的 统治。
Yěxǔ yǒuyītiān women zhègeshídàihuìjìnbù,
也许 有一 天 我们 这个 时代 会 进步,
rénlèihuìzǒudàoyīgeyánlùnzìyóu、sīxiǎngzìyóu、xìnyǎngzìyóu de shídài,
人类 会 走 到一个 言论 自由、思想 自由、信仰 自由的 时代,
dànjuébúshìxiànzàizhègeshídài。
但 绝不是 现在 这 个 时代。
Wénzìyùde sǐnànzhě,wǎngwǎngshì“sīxiǎng”de xùnnànzhě,shìwèi“lǐxiǎng” érsǐ de。
文字狱的 死难 者,往往 是“思想” 的 殉 难 者,是 为 “理想” 而死的。
文字狱はどの王朝でも起きてきた。それは皇帝の「思想」に対する支配だった。もしかしたら私たちの時代がもっと進歩して、人々は言論が自由で、思想が自由で、信仰も自由な時代に至るかもしれない。
だがそれは決して今のこの時代ではないのだ。文字狱の殉難者は往々にして「思想」の殉難者だった。つまり「理想」のために死んだのだ。
まとめ
乾隆帝の後を継いだ「嘉庆帝」(JiāQìngdì)は父の政策を転換し、古代から続いてきた文字狱は基本的になくなりました。でも文字の力は侮れません。
乾隆帝の死から約百年後、新時代への革命のために文筆活動を選んだ活動家については「日本留学中の鲁迅と時代の犠牲になった二人の中国人女性」をご覧ください。