中国で多くの商店や会社の玄関付近に置いている、金属製の三つ足のヒキガエルの置物を見たことがありますか?
中にはギョロッとしたその大きな眼に赤い石をはめ込んで作っているものもあるのですが、実はこれ、商売繁盛を祈願する置物なのです。
商売繁盛を祈願する中国の置物-三つ足のヒキガエル
ヒキガエルの呼び名
この三つ足ヒキガエルの置物は「金蟾」(jīn chán)または「三足金蟾」(sānzújīn chán)と言います。
中国語で「青蛙」(qīngwā)は「トノサマガエル」、「蟾蜍」(chánchú)は「ヒキガエル」ですが、一般的に「カエル」の総称は口語で「蛤蟆」(háma)です。
金属製の金蟾は大抵青銅か黄銅で作られています。それ以外にも木製や陶製のもの、玉で作られたものもあり、開業祝い、中国茶の茶道具の装飾品などとして用いられています。ネット上でも様々な種類が販売されています。
様相
金属製の金蟾のデザインは、体中に無数のイボがあるヒキガエルが主流ですが、イボのない滑らかな仕上がりになっている玉や木製、陶製のものもあります。
ギョロッと飛び出た目は上目づかいで、伸びた胸から首、そして顎にかけての部分にだけはイボがありません。
表情はデフォルメされているのですが、金属製のものは色とも相まって何となくグロテスクな感じがします。
背中には「大钱」(dàqián)と呼ばれる古代の貨幣を何枚もつなげた紐を縛り付けています。
また台座になる部分には大钱だけでなく、金や銀で作られていた大钱よりはるかに価値の高い「元宝」(yuánbǎo)という古代貨幣が積み重ねられたデザインになっています。
「招财进宝」(zhāo cáijìn bǎo「福の神が舞い込むように」)という文字が付いているものもあります。
種類と置き方
金蟾は口にお金をくわえているものとくわえていないものがあります。それぞれに意味があり配置の方法が異なります。
Zuǐ hán qín de jīn chán,qí bǎifàng shí,yào tóu xiàng pú nèi,gōngsī nèihuò zhùzhái nèi,
嘴 含 钱的 金 蟾,其 摆放 时,要 头 向 匍 内,公司 内 或 住宅 内,
bùyí xiàng pú mén、gōngsī mén、wūmén,fǒuzé suǒ tǔ zhī qián jiē tǔ chū wū wài;
不宜 向 匍 门、公司 门、屋门,否则 所吐之 钱 皆 吐 出屋外;
duìyú zuǐ bù hán qián de jīn chán,zé xiāngfǎn,
对于嘴 不 含 钱 的 金 蟾,则 相反,
tóu yào cháoxiàng pú mén、gōngsī mén、wūmén,wèi xī cái rù kù。
头 要 朝向 匍 门、公司 门、屋门,为吸 财入库。
お金を口にくわえている金蟾はそれを置く際に、頭を内側に向けて、つまり会社や住宅の内側に向けてはわせなければならず、門、会社の門、部屋のドアに向けて置くのはふさわしくありません。
さもなければ、くわえているお金をすべて建物の外に向かって吐き出してしまいます。
お金を口にくわえていない金蟾についてはそれとは逆に、お金を中に吸い込んで貯められるように、頭を門や会社の玄関、部屋のドアの方向に向けて置きます。
どこに置くかについてはかなり細かいルールがあるようです。例えば家の者以外が触ったり、おもちゃにしたりしてはいけませんし、金魚鉢や魚の水槽、トイレに向けて置いてはいけません。
さらに仏壇、観音像に向けて置いてもだめですし、家に神棚や神像があるならそれより高い位置に置いてもいけないのだそうです。
由来
陕西省西安に残る「财神刘海与金蟾的传说」(cáishénLiú Hǎi yǔ jīn chán de chuánshuō「福の神劉海と金蟾の伝説」)に金蟾の由来が書かれています。
昔「刘海」(Liú Hǎi)という名の仙人がいました。彼は妖怪をやっつけては人々を助けており、たくさんの妖精を服従させていました。
彼に降伏した数ある妖精の一つが、長年民に害を及ぼしてきた金蟾でした。元は四本足だった金蟾は、刘海に降参した時にけがをしたため足を一本失ってしまいました。
自分の過去の罪を償うため、また刘海が貧しい人を助け、皆が幸福になるようにするために、三つ足になった金蟾は、お金を吐き続けたということです。
この由来に基づいて、金蟾には福を呼ぶ以外に厄除けの意味もあります。
福の神だけじゃない
別の古代の伝説では「月宫」(yuègōng「月の宮殿」)に三つ足の金蟾が住んでいるとされていました。それで「月宫」は「蟾宫」(chángōng)と呼ばれるようになり、家内安全の意味を持つようになりました。
更に後代になると、科挙の試験に合格したことを比喩的に表現するのに「蟾宫折桂」(chángōngzhéguì)という成語が用いられるようになり、金蟾には前途有望という意味も含まれるようになりました。
それで、受験を控えた子供のいる家庭に金蟾の置物を贈ると喜ばれるようです。
また科挙の試験に合格したことの比喩にも用いられているように、金蟾には「官运亨通」(guānyùn hēng tōng「官吏登用や出世運が良くなる」)という意味もあるとされています。
それで、上司へのプレゼントに最適だともされているのです。
中国人にとって金蟾は、商売繁盛、立身出世、厄除け、家内安全の意味を持つ吉祥の象徴だったのですね。