中国では幽霊をみたり、迷信じみた事はないだろうと思っていました。マルクス主義の国ですから――唯物論。
中国のオカルトと迷信:古代から現代までの不思議な伝説
中国の”鬼”
しかし、それは短絡的な発想でした。さすがに幽霊とは遭遇しませんでしたが、中国での日常は予想以上に迷信と密着していたのです。
そりゃそうですよね。科学が発達する前、人間にとって分からないことは、目に見えない者「鬼」の仕業でした。これは万国通じることです。
「鬼」(guǐ)は幽霊や亡霊という意味です。ですから、年男年女は赤いパンツをはいたり、慶弔時に大量の爆竹を鳴らしたりするのは、ごくごく普通のことなんですね。
jīn nián shì mǎ nián, bĕn mìng nián yào chuān hóng nèi kù
今年是马年,本命年要穿红内裤。
今年は午年です。年男年女は赤いパンツを履かなきゃ。
bĕi jīng wŭ huán lù nèi yuán dàn qī jiàn huī fù jìn fang biān pào
北京五环路内元旦期间恢复禁放鞭炮。
北京の五環路以内は元旦の間は爆竹禁止が解除されます。
年男年女
「本命年」とは、自分の干支と同じ干支の年を指し、いわゆる年男年女になる年を意味します。
干支は「属相」(shŭ xiāng)・「生肖」(shēng xiào)です。ですから、「本命年」は「属相年」「生肖年」ともいいます。
bĕn mìng nián fàn tài suì, tài suì dāng tóu zuò, wú xǐ bì yŏu huò
本命年犯太岁,太岁当头坐,无喜必有祸。
これは民間に広く伝わることわざで、直訳すると「本年の干支と自分の干支が重なると、邪神が目の前に陣取り、良い事などはなく必ず災いをなす」という意味になるでしょうか。「太岁」は邪神のことです。
厄除け
赤い下着
ことわざのとおり、本命年は不吉な年と考えられており、年男年女が赤いパンツや腰紐を身につけるのは“厄払い”のため。日本の厄除けに通じます。
しかし、ここで肝心なのは、下着ではなく“赤”という色です。赤には吉祥の意味があり、魔除け効果があるといわれています。
とくに毎年の春節を迎えるにあたり、赤いパンツやももひき、腰紐、パジャマなどは飛ぶように売れます。
爆竹
「鞭炮」も、やはり魔除けのためです。結婚式や春節ではものすごい量の爆竹を鳴らします。
あまりのすごさに、とくに沿岸の大都市では90年代に爆竹禁止令が出されました。毎年、爆竹による死傷者が絶えなかったからです。
いまでは春節など季節の一大イベントのとき、あるいは禁止地域を限定するなどして、爆竹を開放しています。
中国政府は近代国家を目指し科学の普及を推進しており、国内では教養の低い人は迷信を信じ、教養人は科学を信じるという認識が広まっています。
笔仙
しかしその実、沿海都市の中高生、大学生もオカルトや神秘現象に興味津々で、コックリさんと似た「笔仙」も日常的に行われているようです。
「笔仙」(bǐ xiān)は、2~3人で鉛筆を握ってテーブルに置いた紙に垂直に立て、背後霊を呼んで知りたいことを聞いてみます。
恋愛のことや将来のこと、背後霊は何にでも答えてくれるそうです。
wŏ céng wán guò bǐ xiān, kĕ shì bǐ gēn bĕn jiù bù dòng
我曾玩过笔仙,可是笔根本就不动。
筆仙をやったことがあるけど、鉛筆がどうしても動かなかったのよ。
迷信崇拝の強い南方
こうした迷信崇拝は、南方に行くほど色濃くなってきます。
とくに香港や台湾、東南アジアの華僑圏ともなると、風水や迷信、道教の易者の意見がその人の日常を左右するといっても過言ではないくらいです。
邪悪なモノが室内に入ってこないようにベランダに魔除けの鏡を置いたり、死者が出たときはあの世でお金に困らないように餞別としておもちゃの紙幣を燃やしたり……。
僵尸
また、道教のお化けといえば”「僵尸」(jiāng shī)ゾンビです。日本では広東語の発音から“キョンシー”として知られています。
「僵尸」封じにはお札を使いますが、私は東京のとある小さな中華料理店のトイレで見たことがあります。「僵尸」は日本にも進出していたんですね。