日本で「警察」といえば、交番のお回りさんだったり、殺人事件の捜査をする刑事さんだったりします。警察官の勤務先である役所名の冠について「警察署」とか「警察庁」などと呼びます。
中国の警察組織について
目次
中国の警察組織
中国では、一般的に治安維持や人々の生活の安全を守る職業の公務員を指して「警察(jǐng chá:警察)」あるいは「警察官(jǐng chá guān:警察官)」といいます。
守るべき対象は役所ごとに異なります。
中国の「警察」は大きく分けて2つに分かれます。「武警(wǔ jǐng:武装警察)」と「人民警察(rén mín jǐng chá:人民警察)」です。
武警
「武警」の正式名称は「中国人民武装警察部队(zhōng gúo rén mín wǔ zhuāng jǐng chá bù dùi:中国人民武装警察部隊)」。
軍人の資格を持った警察で、治安維持や国境警備、入国管理、要人の警護を行うなどの準軍事組織。
一般庶民はあまりお世話になることはないでしょう。いえ、なってはいけません。
人民警察
人民警察は、いわゆる日本の警察署に当たる「公安机关( gōng ān jī guān:公安機関)」や“反间谍情报执法部门(fǎn jiàn dié qíng bào zhí fǎ bù mén:反間諜情報執法部門、
スパイの諜報活動を取り締まる部門)”である「国家安全机关(gúo jiā ān quán jī guān:国家安全機関)」などの警察官、
さらに「人民法院(rén mín fǎ yuàn:人民法院、裁判所のこと)」「人民检察院(rén mín jiǎn chá yuàn:人民検察院、検察庁)」で働く司法警察(sī fǎ jǐng chá:司法警察)のこと。
日常的には略して「民警(mín jǐng:民警)」と呼ばれています。
中国の検察は司法機関
「おや?」と思われた方もいらっしゃると思います。
中国の「检察机关(jiǎn chá jī guān:検察機関)」は日本と違い「司法机关(sī fǎ jī guān:司法機関)」に属しますので、そこで働く警察業務を担当する職員は司法警察(sī fǎ jǐng chá)と称されます。
公安机关(gōng ān:公安)
できれば「民警」にもお世話になりたくありませんが、ちょっと中国を旅したり、短期留学したりしたとき、不本意ながらお世話にならざるを得ないときもあるでしょう。
そんなときお世話になるお役所は「公安机关(gōng ān jī guān:公安機関)」です。
「公安(gōng ān:公安)」は「公共安全(gōng gòng ān quán:公共の安全)」の略で、その職責は、
wéi chí gōng gòng zhì xù, bǎo zhàng gōng gòng ān quán
维持公共秩序,保障公共安全
公共の秩序を維持し、公共の安全を守る
組織的にはどうなっているのか、上位組織から順にみてみましょう。
公安部(gōng ān bù)
国務院(gúo wù yuàn:国務院)に属する政府機関。「部(bù:部)」は日本の「省」に相当します。
公安厅(gōng ān tīng)
地方政府と公安部の指揮下にあり、省(shěng:省)や自治区(zì zhì qū:自治区)、直辖市(zhí xiá shì:直轄市)に設置され、その行政単位全体を管轄します。
公安局(gōng ān jú:公安局)
公安厅が市(shì:市)や县(xiàn:県〕、区(qū:区)に設置した下部組織です。
公安分局(gōng ān fēn jú)
公安局の下部組織です。
公安派出所(gōng ān pài chū sǔo)
県級以下の自治体である镇(zhèn:鎮)、乡(xiāng:郷)、街道(jiē dào:街道)に設置されます。日本の派出所、交番に該当します。
※「街道」とは、直辖市(zhí xiá shì:直轄市)や比較的大きな市(shì)で、その下に市辖区(shì xiá qū:市轄区)を置かない場合に置かれる行政単位。
この公安組織全体を「公安机关( gōng ān jī guān)」と総称します。
警察の通報
さて、われわれ一般庶民が公安机关のお世話になるのは、物を盗まれたり、強盗に入られたり、事故に遭ったときで、报警(bào jǐng:通報)したり、かけ込んだりします。
报警方式(bào jǐng fāng shì:通報方法)は3通りあります。
通報方法
「电话报警(diàn huà bào jǐng:電話による通報)」「短信报警(duǎn xìn bào jǐng:ショートメッセージによる通報)」「网络报警(wǎng lùo bào jǐng:インターネットを使った通報、英語ではサイバーポリス)」です。
电话报警
电话报警は日本と同じ110番ダイヤルです。一番一般的だし、速いです。
短信报警
通信会社の如何に関わらず、全国統一の「12110」にメッセージを送ります。無料です。
网络报警
省や市ごとに网络报警のウェブサイトがあり、受理案件は地方によって異なるようです。
公安部:http://www.cyberpolice.cn/wfjb/
北京市:http://www.bj.cyberpolice.cn/
上海市:http://wsbs.police.sh.cn:81/wsfwzx/
成都市:http://www.cdnet110.com/
济南市(jì nán:済南、山東省の省都):http://jinan.cyberpolice.cn/xuzhi1.htm
緊急時は电话报警
緊急事態の際は、やはり「电话报警」に勝るものはありません。「短信报警」「网络报警」は、情報が届くのが遅かったり、警察官も人間ですから見逃すこともあるかもしれません。
ただ、監禁されて手元に電話はあるのだけれども、声をあげられないときなどは「短信报警」が有効に働くときも。
基本情報を伝える努力を
犯罪の種類や巻き込まれた状態によって使い分けるべきです。中国の「公安机关( gōng ān jī guān)」も「电话报警(diàn huà bào jǐng)」を第一に奨励しています。
「电话报警」の際は、落ち着いて伝えるべきことはしっかり伝えてください。たとえば、事件発生地点と発生時間、事件の基本的情報です。
中国の警察、実体験
中国にはネットやショートメッセージを使った通報の仕方もありますが、やはり電話での通報の方が速いし、確実。ただその分、中国語を磨く必要があります。少しでも自分で被害を伝えられるように頑張ってみましょう。
自転車事故で
私も一度だけ、中国滞在中に公安のお世話になったことがあります。陸橋を渡り降りるところで、背後から何かがぶつかってきて飛ばされてしまい、幸い、車道側ではなかったのですが歩道に投げつけられてしまいました。
私にぶつかってきたのは、自転車で牛乳を運んでいる若者。ブレーキが効かなかったというのです。
中国の道路は非常に広いので、陸橋は自転車も渡れるところが多いです。でも、降りて、自転車をひいて渡るのが原則ですけれどもね。
警察へ
そのとき私の体には異常がなかったので、職場と上司の名前、本人名前と携帯番号を聞いたのですが、本人の情報だけ教えてくれました。
それで別れたのですが、翌朝、目が覚めたら肩が動かない。「うわっ、むち打ちか」と相手に連絡しましたが、何度かけても電話に出なかったので通報し、事情聴取を受けることになりました。
事情を説明
公安分局(gōng ān fēn jú:公安分局)に出向くと、警察官(jǐng chá guān)は「事故发生!(shì gù fā shēng)」と叫びながら、機敏な対応で私を個室に案内してくれました。そこで具体的な話を聞くというのです。
「そうだろうなあ」と思っていたので、私は事前にすべてをA42枚ぐらいにまとめていたので、それを渡しました。すると、警察官はそれを読み上げながら、一つ一つ確認し、自分でも調書を作成しました。
最後に私がそれを確認して署名するのですが、私の書いた内容がそのまんまでした。
それからその警察官、いきなり加害者の携帯に電話したのです。
×× zài ma? bù zài ā, nà me wǒ shì ○○ gōng ān fēn jú de jǐng chá guān,tā húi lái hòu ràng tā gěi wǒ húi diàn huà,wǒ de diàn huà hào mǎ shì・・・
××在吗? 不在啊,那么我是○○公安分局的警察官,他回来后让他给我回电话,我的电话号码是・・・
××いるか? いないのか。それじゃあ、私は○○公安分局の警察官だが、彼が帰ってきたら折り返し電話をさせてくれ。私の電話番号は・・・・」
一瞬凍りつきました。警察と知って、折り返し電話をしてくる加害者っているのでしょうか?案の定、それからその加害者とは音信不通になってしまいました。
頼りになるのか、ならないのか――まあ、それは横に置いておきましょう。
いざという時の中国語
旅行や短期留学で滞在したときにお世話になる事案は、盗難事故だったり、紛失だったりすると思います。
xiǎo tōu!
小偷!
どろぼー!
qián bāo bèi tōu le
钱包被偷了
財布を盗まれました。
wǒ de shǒu tí bāo bèi qiǎng le
我的手提包被抢了
バックが奪われました。
※「被抢」=「強奪された」というニュアンスです。
wǒ dīu le hù zhào
我丢了护照
パスポートをなくしてしまいました。
一度奪われたものや無くしたものは出てこなくても、保険が下りることもあります。
报失证明
その際、报失(bào shī:盗難を届け出る、盗難届け)をし、报失证明(bào shī zhèng míng:遺失証明書)を発行するのが公安(gōng ān)です。
ここで具体的な状況説明が必要になります。
ちょっとした状況説明として、「午後3時に滞在先の部屋に戻ったらドアノブが壊されていて、室内のテーブルに置いたパソコンもなくなっていた!」という場合、こんな感じの中国語になるでしょうか。
wǒ húi lái fáng jiān shí fā xiàn le mén bǎ shǒu bèi hǔi le, é fàng zài fáng jiān zhūo zǐ shàng de bǐ jì běn dōu bù jiàn le。
今天下午三点我回来房间时发现了门把手被毁了,而放在房间桌子上的笔记本都不见了。
こんな目に遭いたくありませんが、念のため。
wǒ bèi chē zhuàng le
我被车撞了
車にひかれました。
ただ、正直な話、公安(gōng ān)での調書は中国語で作成されるので、詳細を中国語であ話す自信のない方は日本語のわかる中国人に付き添ってもらうことをお勧めします。
パスポート紛失の際は
パスポートを紛失して、領事館で渡航書やパスポートを発行してもらう場合は、派出所ではなく出入境管理局(chū rù jìng guǎn lǐ jú)が発行した护照报失证明(hù zhào bào shī zhèng míng:パスポート)が必要です。
出入境管理局といえば、日本の入管みたいなものですが、中国では公安(gōng ān)の一部門です。公安の仕事には人口や外国人の管理もあります。
护照报失证明を受け取ったら、日本領事館に出向きます。滞在資格や暂居证を再取得する場合は、护照报失证明とパスポートを持って再び出入境管理局へ行きます。
実際に被害にあった場合、申請に必要なものはご自分が加入する保険会社や大使館などに確認してくださいね。
日本は個人情報管理が厳しくなっています。中国はお客様個人情報の管理は日本ほど厳しくないのですが、中国警察による個人の情報管理は恐ろしいほどまでに厳しくなっています。
決して知られたくないプライベート情報も中国警察は知っているかもしれません。
中国警察のデータにあるもの
日本人が中国で生活すればするほど、中国警察のコンピューターに様々な情報が蓄積されていき、個人データベースが出来上がっていきます。
個人データベースにあるのは、名前(名字:míngzi)、年齢(年龄:niánlíng)、住所(地址:dìzhǐ)、勤め先(工作地点:gōngzuò dìdiǎn)などの基本情報だけではありません。下記のような情報も記録されています。
嗜好 shìhào (好み、趣味)
思想 sīxiǎng (考え方、思想)
なぜ中国警察のデータベースはこうした人の心の中の情報を記すことができるのでしょうか?
中国警察の個人データ
中国警察が個人データベースを作るのは、身分証明書(身份证:shēnfenzhèng)がある中国人と中国本土で外国人登録(外国人登记:wàiguórén dēngjì)を行なっている外国人です。
警察のコンピューターに身分証明書の番号、外国人であればパスポートナンバーを入力すると、コンピューター画面にこれらの個人データが現れます。
しかも個人情報管理が厳しくない中国。警察の人と仲良くなると「ほらこれが君のデータだよ」という感じで見せてくれたりします。
それにしてもどうして思想や趣味などのプライベート情報が分かってしまうのでしょうか?
メール・チャットのやり取り
中国警察が個人の思想・趣味を知る方法の1つ目は「個人のメールやチャットでのやり取り」を監視することです。
ある人が反政府的な考えを持っているとしましょう。チャットルームで共産党のやりかたを批判します。中国警察は国内でなされているすべてのメールとチャットでのやり取りを一字一句読むことはしません。
しかし共産党を批判するときに使うある特定の敏感な言葉(敏感词:mǐngǎn cí)を打ち込むと、ネット警察(网络警察 : wǎngluò jǐngchá)によって、その敏感な言葉発した人の発言すべてが検査され、その人の個人データに書き込まれます。
あまりに内容が激しい場合は、すぐにでも出頭するように電話がかかってきます。
サイトアクセス数のチェック
中国警察が個人の思想・趣味を知る2つ目の方法は「どの特定のサイトにどれほどアクセスしているかという記録」の監視です。
例えばある人が月に何回も海外の宗教組織のサイトにアクセスしているとしましょう。中国警察はその中国人、または中国滞在中の外国人が海外の宗教思想を持っている人と認識するわけです。
その他の情報管理
他にも中国警察が調べる情報はいろいろあるようです。
「ネットショッピングの記録」や「頻繁にダウンロードしているファイル」なども中国警察は簡単に調べることができ、きわめてプライベートな個人の思想や趣味などがつかめてしまいます。
何のための個人管理?
現在2万人と言われるネット警察は、何のためにこれほどの厳しい個人情報管理をしているのでしょうか?それは中国の暴動を防ぐためです。
大きな反政府勢力になる前に、個人の思想の段階で早めに暴動の芽を摘むことによって国家の安全を保っているというわけです。