中国語を学ぶ日本人の三人の女子留学生がある日食事に出かけました。
一人がメニューについて尋ねようとウェーターを呼び、「请问」(お尋ねしたいんですが)と発音するはずを「请吻」(キスしてください。)と言ってしまい、残る二人は大慌て。
中国語の発音の複雑さ:声調言語と方言の理解
中国語の発音
声調言語
「请问」は(qǐng wèn)、「请吻」は(qǐng wěn)と発音しますね。
このように声調言語である中国語は、声調を間違って発音すると意図が全く間違って伝わってしまいます。
不思議なことに留学生同士が会話をすると、声調はまだまだ不正確なのですが、授業で学んでいる単語や内容と照らし合わせて、相手が大体何を言いたいかを互いに理解できます。
ところが一歩大学の外に出て、一般の中国人と買い物などで会話を試みても、こちらは中国人の話す言葉がわからず、あちらは外国人留学生の話す中国語がわからないという現象が起きます。
発音総数は400以上
留学生同士、初めは身振り手振りを交えて何とか会話をしようと努めるものです。
もちろん授業はすべて中国語ですから、先生方は
duō tīng duō dú duō xiě duō shuō
多 听 多 读 多 写 多 说
たくさん聞き、たくさん読み、たくさん書き、たくさん話しましょう。
と励まして下さいます。これは中国語学習のみならず、どの言語の習得にも当てはまる大原則ですね。
日本語の発音総数は100以上と言われています。ところが中国語には400以上の音があり、しかも正しい声調で話さなければ少しも相手に話が伝わりません。
良く聞きよく話す
発音についていうと、これは筋肉運動なので、確かに「多读多说」は欠かせません。
中国人の話す中国語に耳が慣れてくると、今度は留学生が話す中国語がわからなくなってきます。
言葉には発音だけでなく、語法の要素や、センテンスの流れに伴う音楽のような旋律がありますよね。
正確な発音、正しい言い回しの中国語をどれだけたくさん耳にするかは中国語のマスターに欠かせません。
標準語と方言
標準の普通話を話せない中国人も少なくありません。地方の方言も厄介な問題です。
北京語が基本
標準の普通話は、中央政府が発音については北京語をもとに、語法に関しては北方語を基礎として共通語と定めたものです。
しかし、北方語だからといって北方に住む人々の発音に問題がないわけではありません。
ある日、友人とその知人の3人で会話していた時のこと、私が
Āi yā,zhè zhēn kě lián。
哎 呀,这 真 可 怜 。
あら、それは本当にかわいそうだわ。
と言った時のことです。
その知人はしばらく私の顔をじっと見てから、
Nǐ shuō de shì kè lián ba。
你 说 的 是 可 怜 吧。
あなたが言ったのはかわいそうってことでしょ。
と言ったのでした。
この人の地域の方言では三声を四声で話す習性があります。
それで、わたしの発音をこの地方ならではの発音に矯正しようとしてくれたんですね。この方言では、
「打电话」(dǎ diàn huà)は「打电话」(dà diàn huà)
「火车站」(huǒ chē zhàn)は「火车站」(huò chē zhàn)
「铁路」(tiě lù)は「铁路」(tiè lù)
というふうになってしまいます。
こうした地域で話す方言に耳が慣れてしまうと、自分の話す言葉も知らず知らずのうちに影響を受けてしまいます。
言語の学び始めは、やはり正しい音を聞いて学べるところを留学先に選ぶ方が賢明かもしれません。
方言
自分の出身地の方言のことを「老家话」(lǎo jiā huà)と言います。
故郷に帰るため大きな荷物を持って、駅で電車待ちをする人たちの話す言葉は、大方こうした「老家话」で、彼らの会話を耳にしても、こちらにはほとんど理解できません。
若い世代であっても、それは同じです。私達外国人は大学で先生方のきれいな「标准的普通话」(biāo zhǔn de pǔ tōng huà)に慣れてしまっています。
ところが「老家话」は、語法は同じでも、使う単語や発音そのものが違うので、彼らが何を話しているのかさっぱりわからないのです。
Nǐ men gang cái shuō de shì nǐ men de lǎo jiā huà ba?
A: 你 们 刚 才 说 的 是 你 们 的 老 家 话 吧?
Wǒ yì diǎr dōu tīng bu dǒng。
我 一 点 儿 都 听 不 懂 。
あなた達がさっき話していたのは出身地の方言でしょ?私、少しも聞き取れなかったわ。
Nǐ bié dān xīn,wǒ men shuō de lǎo jiā huà,
B: 你 别 担 心,我 们 说 的 老 家 话 ,
lián qí tā zhōng guó rén dōu tīng bu dǒng。
连 其 他 中 国 人 都 听 不 懂 。
心配しなくてもいいわよ、私達が話す言葉はほかの中国人ですら聞き取れないから。
その人の年齢や住んでいる地域は舌の動きに大きな影響を与えているようです。
広い国土ですから、多くの地方では標準とは異なる発音方法があり、それを子供の時から聞いて育った人は正しい発音に矯正しなくてはなりません。
大学生など若い世代の人や、大都市で働いた経験のある人は矯正経験がありますが、60歳以上の高齢者は当時のままの発音であることが多く、改めて言語は生き物だという事を実感させられます。