皆さんが思い描く「英雄」とは、どんな人の事でしょうか?人によって定義が異なるかもしれませんね。
これは多くの人が好きな話題で、三国志の英雄であった曹操と劉備も例外ではありません。今回は、この二人が語る英雄論に注目します。
三国志の英雄論:曹操と劉備の語る英雄とは?
目次
煮酒论英雄として語り継がれる英雄論
この曹操と劉備ですが、三国志に登場する英雄です。非常に興味深いことに、この二人がお酒を飲みながら英雄について語る機会があったのです。
この時に二人が英雄について語ったシーンのことを中国語で、曹刘煮酒论英雄(cáo liú zhǔ jiǔ lùn yīng xióng)といいます。
曹は曹操のことで、刘は劉備のことです。中国の人は曹操と劉備の二人のことを略して、曹刘と呼んだりします。
煮酒论英雄ですが、これはこの時の二人のやり取りがのちにあまりにも有名になったために、「ある人や物事に対して評価を行うこと」を意味するようになりました。
またこの時は梅が青く実る季節だったことから、青梅煮酒论英雄(qīng méi zhǔ jiǔ lùn yīng xióng)と呼ばれたりもします。
このことからも曹操と劉備が、いかに中国社会に多くの影響を残した存在であるかを見て取ることができます。
曹操と劉備の性格についてはこちらの記事で紹介していますのでご覧ください。
当時の背景
この有名な英雄論は、どんな状況で話し合われたのでしょうか?後に宿敵となる曹操と劉備ですが、この時はまだはっきりとした対立関係になってはいませんでした。
この時の劉備はまだ自分の国を持っておらず、世に出る機会をうかがっている状況で、野菜作りをする毎日でした。曹操は彼とは対照的に、すでに自分の地盤をかなりの程度確立していました。
この二人が手を組んで、呂布を倒します。この呂布という人物も、とても個性的で学ぶところが多い人物です。呂布についてはこちらの記事をご覧ください
劉備はまだ台頭してはいませんが、曹操は劉備の素質を見抜いて、将来自分を脅かす存在になることを確信していました。
それで、梅が青く実る季節のある日、曹操が庭で一緒にお酒を飲もうと劉備を誘い、劉備の本心を探ろうと試みたのです。
こうして曹操と劉備の英雄論が始まるようになりました。
劉備を試したい曹操
曹操は劉備が腹のうちで何を考えているのか知りたかったのです。そのため一緒に酒を飲みながら劉備を試します。
sú yǔ shuō jiǔ hòu tǔ zhēn yán, cáo cāo xiǎng jiè yóu hē jiǔ lái shì tàn liú
bèi
俗语说酒后吐真言,曹操想借由喝酒来试探刘备
酒を飲むと本音が出るということわざがあるように、曹操は酒を飲むことで劉備を試したかったのです。
この文章に试探という言葉が出てきますが、「相手の意向や出方などについて探りを入れる」という意味があります。
试探の例文をいくつかみてみましょう。
tā gù yì shuō xiē fǎn huà, shì tàn tā de xīn yì.
她故意说些反话,试探他的心意。
彼女は彼の気持ちを試すためにわざと皮肉を言った。
ここでは、女性側が男性の気持ちを知ろうとして探りをいれることに试探が用いられていますね。
xiān shì tàn shì tàn, kàn tā yǒu shé me fǎn yìng, zài yán jiù duì cè.
先试探试探,看她有什么反应 ,再研究对策。
まずは試して彼女の反応を見てから対策を検討しましょう。
ここでも、女性の反応を知ろうとして试探を用いています。
この试探は日常生活でもよく使うので覚えておきましょう。
会話文-英雄論
では、実際に二人の間でどのような会話がなされていたのかみてみましょう。
shǐ jūn zhī lóng zhī biàn huà fǒu?”
曹操:使君知龙之变化否?
龍がどのように変化するか知っておるか?
wèi zhī qí xiáng
劉備:未知其详。
存じませぬ。
lóng néng dà néng xiǎo, néng shēng néng yǐn
曹操:龙能大能小,能升能隐。
龍は、大きくもなれるし小さくもなれる、昇ることも潜むこともできる。
dà zé xìng yún tǔ wù, xiǎo zé yǐn jiè cáng xíng
大则兴云吐雾,小则隐介藏形。
大きくなれる時は雲を起こして霧を吐き、小さくなった時は塵や芥(あくた)に身を隠す。
shēng zé fēi téng yú yǔ zhòu zhī jiān, yǐn zé qián fú yú bō tāo zhī nèi
升则飞腾于宇宙之间,隐则潜伏于波涛之内。
龍は昇れば凄まじい姿で宇宙までも舞い上がって飛翔し、隠れる時は波間にひっそりと潜伏もする。
fāng jīn chūn shēn, lóng chéng shí biàn huà, yóu rén dé zhì ér zòng héng sì hǎi. lóng zhī wèi wù, kě bǐ shì zhī yīng xióng.
方今春深,龙乘时变化,犹人得志而纵横四海。龙之为物,可比世之英雄。
ちょうど春が深まる今は龍が時季に応じて変化しようとしており、まるで高い志を持つ人が天下を自由に縦横するのと同じだ。龍たるモノは、正しく人間の英雄に称えられる
xuán dé jiǔ lì sì fāng, bì zhī dāng shì yīng xióng. qǐng shì zhǐ yán zhī.bèi ròu yǎn ān shì yīng xióng
玄德久历四方,必知当世英雄。请试指言之。“备肉眼安识英雄?”
玄徳殿(劉備のこと)は各地を行きめぐっておるゆえ英雄をご存じであろう。是非おっしゃっていただきたいものだ。劉備殿が認める英雄は誰か。
曹操の言葉の意味
一見曹操は龍のことを話しているように思えますが、実は自分と劉備のことを比喩表現を用いて描写しています。
この時点で劉備は、まだ地盤もなく曹操に身を寄せ、大人しく野菜作りをする毎日だったので、とても英雄とはいえないような生活を送っています。
しかし、劉備の素質をいち早く見抜いた曹操は、自分と同じ高い志を持つ劉備がただ「不遇な時期」にいるだけで「小さくなって耐え忍んでいる」と評価していました。
一方の曹操は、すでに「天子を持って諸侯を命ずる」という「順調な時期」で、宇宙に舞い昇った龍のように天下を自由に縦横し、大いに腕前を振るっている状態です。
曹操は、劉備のことも自分自身のことも龍に例えていたのです。
于について
上の曹操と劉備の会話文は書き言葉になっているため、日常生活で頻繁に使うものとは若干異なりますが、これらの言い回しに慣れておくことにはメリットがあります。
中国語は書き言葉にするととても美しい言語です。曹操は詩人としても高い評価を得ており、英雄論で彼が用いた中国語も大変美しい言い回しが用いられています。
中国人も考えを書き言葉できれいにまとめるのがとても好きです。
では、于の用い方について紹介します。
升则飞腾于宇宙之间,隐则潜伏于波涛之内という文の中で、于が二度用いられていますね。この于は中国語でとても良く用いられます。
意味は文脈によって様々に変化しますが、ここでの意味は「動作や事態の発生する場所・時間」という意味です。
この意味で用いられる場合は、動詞+于…の形で用いられます。
升则飞腾于宇宙之间の場合は、飞腾(飛び上がる)という動作が発生した場所が、宇宙であることを示すために用いられています。
隐则潜伏于波涛之内の場合は、潜伏(潜む)という動作が発生した場所が、波間であることを示すために用いられています。
下の例文のように場所だけでなく、動作や事態が発生した時間を指して用いることも可能です。
zhōng huá rén mín gòng hé guó chéng lì yú yī jiǔ sì jiǔ nián
中华人民共和国成立于1949年
中華人民共和国は 1949 年に設立されました
動詞+于…の形は書き言葉で用いられることが多いのですが、こちらはとても頻繁に用いられる構文なので覚えておきましょう。
劉備の答え
曹操から自分の思う英雄について述べてみよと言われた劉備は、いろいろな人の名前を挙げていきます。
袁紹・袁術・孫策など、その時勢力を持っていた人物の名前を一人一人挙げていきますが、曹操はそれら全てを英雄ではないと否定します。
自分が挙げた人物全て否定されてしまった劉備ですが、この後会話がどのように続いていくのかみてみましょう。
shě cǐ zhī wài, bèi shí bù zhī
劉備:舍此之外,备实不知。
今挙げた者以外は思いつきませぬ。
fū yīng xióng zhě, xiōng huái dà zhì, fù yǒu liáng móu, yǒu bāo cáng yǔ zhòu zhī jī, tūn tǔ tiān dì zhī zhì zhě yě
曹操:夫英雄者,胸怀大志,腹有良谋,有包藏宇宙之机,吞吐天地之志者也。
英雄にはその胸に大志を抱き、腹に良謀を秘め、宇宙の妙を洞察し、天地の機を呑む力を持つものだ。
shéi néng dāng zhī
劉備:谁能当之?
それほどの人物がいますか?
ここからがクライマックスです。曹操は劉備を指さして言います。
jīn tiān xià yīng xióng, wéi shǐ jūn yǔ cāo ěr
曹操:今天下英雄,惟使君与操耳!
天下の英雄は、そなたとこの曹操だけだ!
これまでたくさんの比喩表現を用いてきた曹操ですが、ここではっきりと自分と劉備が天下の英雄であることをはっきり告げます。
之外について
劉備は舍此之外,备实不知と答えました。「それ以外のもの(この場合、自分が名前を挙げた者)は知らない」という意味です。
「~以外」と言いたい場合、之外を用いることができます。この言い方を知っているととても便利です。
zhè zhī wài
这之外
これ以外
chú le tā zhī wài shéi dōu méi zài
除了他之外谁都没在。
彼以外には誰もいませんでした。
chú cǐ zhī wài wǒ hái yǒu hěn duō gōng zuò.
除此之外我还有很多工作。
私にはそれ以外にも仕事がたくさんあります。
以外について
之外と同じ意味を持つ言葉で、以外(yǐwài)という言い方があります。日本語にも「~以外」という言い方があるので、日本人にとっては覚えやすい言葉です。
rì běn yǐ wài de shēng huó
日本以外的生活
日本以外の生活
gōng zuò yǐ wài de shí jiān yào hǎo hǎo ān pái
工作以外的时间要好好安排
仕事以外の時間を適切に計画する
また、以外には「~の向こう、~以上」という意味があります。
tā dào wǔ shí gōng lǐ yǐ wài de běi jīng qù sòng xìn.
他到五十里以外的北京去送信。
彼はメッセージを伝えるために50キロ離れた北京へ行きました。
tā nián jì zài liù shí yǐ wài
他年纪在六十以外
彼の年齢は60歳過ぎです。
曹操にはっきりと自分と並ぶ英雄だと告げられた劉備は、曹操の警戒心を解くためにとっさに雷の音にびっくりしたふりをします。
劉備はなんとしても曹操の警戒心を解きたいと思っていたのです。独特の緊張感が伝わってきますね。
当について
劉備は谁能当之?とも言いました。「それほどの人物がいますか?」という意味でしたが、細かく訳すと「そのような英雄の役割を務められる人がいるでしょうか?」という意味になります。
当には「担当する、務める」という意味があり、こちらもよく用いる表現です。
tā dāng shàng le lǎo shī
他当上了老师
彼は教師になりました。
tā dāng dài biǎo
她当代表
彼女が代表を務めています。
まとめ
今回は、 曹操と劉備による「英雄論」について紹介しました。中国語の会話文は書き言葉だったので、難しく感じたかもしれません。
その中から抜粋して紹介した部分は現在の日常生活でもよく使いますので、是非この二人が酒を酌み交わしながら英雄について語る様子を思い描きながら覚えるようにしましょう。
中国人の友人がいらっしゃるなら、この煮酒论英雄についてどんな意見を持っているか、尋ねてみるのも面白いかもしれません。