中国語の歌では正しい声調で歌わなくても意味が通じるの?と一度は感じた方も多いのではないでしょうか。今回は、歌を歌う場合の四声のあれこれについてご紹介します。
中国語の「四声」は歌になるとどうなる?リズムやメロディーとの関係性
中国語の四声の重要性
四声は中国語を学ぶうえで、意味を区別するために不可欠な存在です。中国語では同じピンインでも、声調が異なると全く違う意味を持つ単語が多数存在するからです。
例えば「妈(mā,:母)」「麻(má,:麻)」「马(mǎ,:馬)」「骂(mà,:罵)」は全て「ma」という同じ発音ですが、四声が異なるため、それぞれ全く異なる意味を持ちます。
声調が一つ異なるだけで意味が全く変わってしまうため、正確な発音が求められます。
日本語でも「雨」と「飴」、「橋」と「箸」のように、同じ発音でもイントネーションが異なると意味が変わる単語がいくつか存在しますよね。
日本語では多少イントネーションが変わっても文脈で意味が何となく伝わる場合でも、中国語は声調一つで全く通じないという現象が起こります。
声調を誤ると、聞き手に誤解を与えたり理解されなかったりする可能性があります。
例えば「请问(qǐng wèn,:ちょっとお尋ねします)」と「情问(qíng wèn:愛情を尋ねる)」は声調が違うだけで意味が大きく異なります。
そのため中国語における正確な四声での発音は、スムーズなコミュニケーションにとって不可欠です。
中国語の歌の場合の四声
音楽のメロディーが言語の声調に優先されるため、日常会話ほど正しい四声で歌う必要はありません。
中国語の四声は、曲になると歌のメロディー自体が持っている高低の変化に溶け込むため、正しい四声を意識して歌う中国人はあまりいません。
声調があまり意識されない背景には、歌のリズムも関係しています。歌のリズムに合わせるために、声調の変化が圧縮されたり伸ばされたりすることがあるからです。
特に速いテンポの曲やリズミカルな部分では、声調を正確に守ることが難しく、リズムに合わせて歌うため自然と声調が調整されます。
さらに歌手が感情を込めて歌う際、声調を意識せずメロディーに合わせて変えることがあります。感情を強調するために、声調が誇張されたり変えられたりすることがあるため、これも正確な声調を崩す要因となります。
正しい四声でなくても歌のストーリーや文脈から読み取ることが可能なため、中国人自身も気にせず歌のメロディーに合わせて歌う人が大半です。そのため、中国語の歌では四声が正確に表現されていません。
歌を使った中国語学習のメリット
フレーズや単語などの語彙力アップ
音楽は記憶に強く残りやすいため、繰り返し聞くことでメロディーとリズムが記憶に残り、歌詞が覚えやすくなります。さらに歌は感情を伴うので、感情に関連づけて覚えた単語やフレーズはさらに忘れにくくなるでしょう。
例えば、悲しい歌詞の中で使われる単語や楽しいメロディーに乗せて覚えたフレーズは、感情と結びつくことで記憶に強く残ります。
これらの理由から、歌を使った語学学習は、単語やフレーズの習得に非常に効果的であり、楽しく持続可能な方法だといえるでしょう。
中国語の速さをマスター
歌は一定のリズムとテンポに乗せて歌われるため、自然に言葉のリズムに慣れることができます。日常会話でも、話すスピードには一定のリズムがあるかと思います。
特に中国語では、日本語と異なり滑らかなリズムが欠かせません。この滑らかさの感覚を中国語の歌を通じて掴むことで、話すスピードに対する感覚が鋭くなり、自然なスピードの中国語に繋がります。
速いテンポの歌を繰り返し聞くことで、速いスピードに耳と脳の処理機能が慣れ、スピード感覚を養えるようになるのです。
歌詞を通じて多くの単語やフレーズ習得にも繋がるため、繰り返し聴くことで記憶に残りやすい点も要因の一つにあるかと思います。
リズムに合わせて口ずさむことで、言葉の連なりやフレーズの流れをいつの間にか自然とスムーズに発音できるようになっていきます。
発音トレーニング
歌はリズムとメロディーを伴っているため、自然な形で耳から音を拾い口ずさむことで、中国語特有の口の筋肉の使い方を習得することができます。
歌詞を何度も繰り返し聞くとリスニング能力も鍛えられるため、正しい発音トレーニングにも繋がります。言語においては、正しく発音できる音のみ聞き取る事ができるという特性があるため、聞き取ることができる=正しく発音できることに繋がるのです。
数ある言語の中でも特に中国語の発音では、口の形や舌の位置など細かく調整が必要であるため、しっかりと口の中の筋肉の使い方を知る必要があります。
日本語にはない口の動きや舌の使い方が多様にあるので、特に日本人にとって中国語の発音は習得が難しく感じる部分かと思います。中国語の歌を何度も聴くことで発音を聞き分ける力を養い、自身の発音も矯正していきましょう。
学習のモチベーションアップ
歌にはエンターテインメント性があるため、学習目的で聴くだけではなく娯楽として取り入れることで学習のモチベーションアップにもつなげることができます。
言語学習は成長実感がなかなか得られず、時に単調で退屈になりがちな時期もあるかと思います。
そんなときは好きな音楽を学習に取り入れるなど、楽しく続けられる学習の動機付けは、継続的に学び続けるための重要な要素になります。歌を通じて中国文化を感じることもできることでしょう。
言語学習は単に言語を話せる様になる面以外に、その国の文化を理解することとも密接に関係しています。文化面における興味が、言語学習の意欲を高める重要な要因の一つでもありますよね。
中国の歴史・習慣・価値観を歌を通じて学ぶことで、きっと言語そのものへの興味も更に深まってくるはずです。
文化への理解が進むと、言語学習が単なる勉強ではなく、文化交流の手段としての魅力を持つようにもなっていきます。学習の楽しさを感じられる工夫を中国語の歌を通じて作ることで、自然と学習に対する意欲を高めていけるのではないでしょうか。
中国語学習に向かない曲の特徴
中国語学習者の中には「声調をマスターしたい」「声調に特化して練習をしたい」と思っている人が沢山いると思います。
しかし中国語の声調はメロディーに左右される特性があるため、声調学習に特化した活用方法としてはおすすめできません。ここでは、中国語学習に向いていない曲の特徴をご紹介します。
テンポが速い曲
テンポが速すぎる曲は、そもそも歌詞の意味や単語を正しく聞き取ることが難しく、初心者の方にはおすすめできません。特にラップ曲はテンポが速く、中国人ネイティブでも一度で意味を聴き取れないケースもあるようです。
学習目的での視聴では、テンポが速すぎない曲やバラード曲から試してみてはいかがでしょうか。
日常で使わない表現が多い曲
単語のまとまりやフレーズを知る、語彙力をアップさせる意味で、歌を活用することはありますが、実は日常会話で使いづらい表現も多く使われています。
中国語ドラマでも特に時代劇で使われる言葉は、現代で使われていない表現が多く、娯楽目的で視聴する学習者も少なくありません。日本語でも「〜でござる」という昔の表現を現代で使う人はほぼいないように、中国でも同様に現代に合った表現が好まれます。
歌詞も同様で、独特な表現が曲の中に存在することがあるため、初心者が歌から学ぶという学習方法から入ることはおすすめしません。
表現の豊かさや曲の深みを出すために、詩特有の表現で書かれている曲も多いため、身近な言葉や使いやすい言葉の曲を選びましょう。
文法を無視している曲
中国語の歌詞はメロディー上の語呂や耳触りの良さを重視する傾向にあるため、正しくない文法で書かれている歌詞が多く存在します。声調がメロディーに左右されると先ほどお伝えした点と同様、歌詞の文法も正しいとは限りません。
日本の歌でも、メロディーや文脈・気持ちの表現として歌詞が書かれている歌では、本来の日本語文章では使われない語順もありますよね。
そのため、中国語文法の学習を重視する場合は、歌の活用はあまりおすすめできません。中国語は日本語に比べて単語の語順が正しくないと意味が伝わらない場合も多いため、文法の勉強では参考書やよく使われるフレーズから学びましょう。
歌い方にクセのある歌手の曲
バラードやラップ・ポップな曲など、曲に種類があるように、歌い方に特徴がある歌手も数多く存在します。声調はメロディーのほか、歌い手の歌い方にも影響を受けるため、声調習得や学習目的で聴いてしまうと間違った習得にもなりかねません。
その歌手のクセを知らず知らず真似てしまうことで、正しい声調や発音が身につかず、日常会話でも相手に伝わりづらい場面ができてしまう可能性があります。
特徴的な歌い方をする歌手の曲では、学習目的ではなく娯楽として楽しみながら聴くことで、学習のモチベーションにつなげていきましょう。
中国語学習におすすめの曲
学習目的が声調に限られている場合は、歌を使った勉強はおすすめではありません。しかし声調以外での目的で学習する場合は、リスニング力や語彙力向上が期待できるため、いくつかおすすめしたい曲をご紹介します。
小幸运(A Little Happiness)- 田馥甄 (Hebe Tien)
この曲は中国語学習者の中でも、表現を学べる曲として有名です。恋愛について描かれた曲であり、現代的な表現が含まれているため、実用的な語彙を学ぶことができます。
歌い手の田馥甄(tián fú zhēn)の発音も非常に聞き取りやすいため、リスニング練習にも活用しやすい曲の一つ。歌自体もリズムが一定でメロディーも覚えやすいため、繰り返し練習することで語彙力向上が目指しやすい曲の一つとしておすすめです。
聞き取りやすさに加え、日常で使える表現もたくさん含まれていますよ。
ài shàng nǐ de shí hòu hái bù dǒng gǎn qíng
爱上你的时候还不懂感情
爱上では、何かに達するという意味合いを持つ上(shàng)を使って、愛してしまったという気持ちの表現が使われています。
英語では fall in loveで恋に落ちることを表現しますが、中国語では何かに達するという意味合いを持つ上(shàng)が使われています。同じ状態であっても、国によって表現方法が異なるところに言語の面白さを感じますよね。
爱上(ài shàng)以外にも、好きになってしまうことを喜欢上(xǐ huan)や看上(kàn shàng)が使われることもあります。
この3つの中では、爱上(ài shàng)が一番深い感情を表す単語として使われます。
その他、上(shàng)を使った表現はたくさんあり、試験に合格することを考上(kǎo shàng)、扉などを閉めることを关上(guān shàng)と表現します。
月亮代表我的心(The Moon Represents My Heart)- 邓丽君 (Teresa Teng)
邓丽君(dèng lí jūn)はテレサ・テンの中国語名で、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。中華圏・東南アジアで大活躍し、「アジアの歌姫」とも呼ばれていました。
彼女の歌声は非常にクリアで発音がはっきりしているため、リスニングと発音練習に最適です。歌詞はシンプルで愛に関する表現が多く、日常会話に役立つフレーズがたくさん含まれている点も特徴です。
音程も安定しておりメロディーは比較的ゆったりしているため、歌を使った学習に適している曲の一つとしておすすめです。
yuè liàng dài biǎo wǒ de xīn
月亮代表我的心
直訳では、「月はわたしの心を表している」という意味を表します。これは「見えても見えなくて新月でも満月でもずっとそこに存在している月」を自身の心に例えて、相手への想いを表現しています。
月と同じように私の気持ちも変わらずずっとそばにある、想っているという気持ちを月を使って表現するところが中国らしい趣を感じます。
朋友(Friends)- 周华健 (Wakin Chau)
この曲は友情をテーマにしており、感情表現が多く含まれています。周华健(zhōu huá jiàn)の発音も聞き取りやすくクリアで、リスニング練習に適しています。彼は中華系の人であれば、知らない人はいないというくらい有名な歌手の一人です。
この曲のリズムも安定しており、歌詞も比較的シンプルで覚えやすいところが特徴です。中国の年配の方とカラオケに行くときは、この曲を選ぶと会話のきっかけにもなり必ず盛り上がるはず。
使われている歌詞がシンプルでわかりやすく、どれも中国語学習初級で習得する単語ばかりのため、取り入れやすい曲としておすすめです。
まとめ
中国語で歌を歌う場合は、正しい声調である必要がないことがわかりました。正しい声調よりも、リズム感やメロディーに合わせた歌い方が重要視されるため、中国人ネイティブも声調を気にしていない人が大半です。
中国語を滑らかに話せるようになる練習として、口の筋肉を鍛えるためにぜひ中国語の歌を活用して練習してみましょう。日常会話での中国語のリズムあるスピーキングに活かせる部分があるはずですよ。
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