中国には数多くの王朝が存在して滅びてきました。皆さんは、中国の数ある君主の中で最も名君と称された人のことをご存知でしょうか?
今回は最も高い評価を受けている李世民(lǐ shì mín)と、李世民に関する中国語を紹介します。
歴史と人物から学ぶ中国語~李世民と貞観政要~其の一
目次
李世民に注目する理由
中国には4000年の歴史があります。中国の方にいわせると、中国の歴史は5000年となりますが…。この点について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
その中で20余りの王朝が存在してきましたが、多くの政権は短命に終わっています。その中国の歴史をつぶさに調べた人の多くは、口をそろえて「長期政権を作るのは至難の技だ」と言います。
そんな中、李世民が父親と共に立ち上げた唐の時代は、約300年間も続いたのです。これほど長く王朝が続いたわけですから、その礎を築いた李世民はかなり強烈なリーダーシップを持った人物だったと想像できます。
後代に大きな影響を与えた貞観政要
李世民を語る上で欠かすことができないのが「貞観政要」(じょうがんせいよう)です。中国語では「贞观政要」(zhēn guàn zhèng yào)といいます。
貞観政要とは
この「貞観政要」とは「貞観の時代の政治の要点をまとめた書物」のことで、李世民とその有能な臣下達との政治問題集のことです。
貞観とは、300年続いた唐の歴史の中でも最も平和で安定していた時代を指し、李世民が治めていた時代です。
貞観政要は唐の時代の書物ですが、現在に至るまで保存され、今でも主にビジネスの分野で引用されていますし、中国だけでなく日本の政治家にも多くの影響を与えています。
鎌倉時代に活躍した北条政子は、貞観政要を治世の参考書にするように命じました。江戸時代には、徳川家康が貞観政要を素直に取り入れた結果、300年にもわたる長期政権が維持されました。
それだけでなく、明治天皇なども帝王学の教科書として、貞観政要を学んできたという主張もあります。
当サイトは中国語に関する情報をお伝えしていますが、今回お伝えする情報は中国語のみならず、実生活やビジネスにおいてもとてもプラスとなる内容です。
貞観政要という名前がとても難しそうな印象があるので敬遠しがちですが…。わかりやすいように、かみ砕いて説明していきますね。
貞観政要の概要
この貞観政要には何が書かれているのでしょうか?一言で言えば「守りの難しさとコツ」です。守りと聞くと何か地味な感じがしますが、実生活でもビジネスでも守りを固めるというのは大変重要ですよね。
野球などのスポーツで例えると、あるチームがその年のチャンピオンになったとします。それは本当に素晴らしいことですが、チャンピオンになって終わりではありませんね。次の年はその立場を守ることが求められ、できなければ一時の栄光で終わってしまいます。
実生活やビジネスでも同じです。結婚をする・子供を産む・新しい事業を始める・新しい生活が始まるというのはとてもワクワクします。しかしその後は、結婚生活を維持する・子育てを続ける・事業を維持する必要があるものです。
物事を始める(攻め)ことと、始めた物事を続ける(守り)ことはまったくの別物で、異なる精神と資質が求められます。
守りの重要性
人生においては、新しく始めたことを継続するという「守り」こそが大事であるといっても過言ではありません。
中国では長い期間乱世の世が続きましたが、たくさんの人が「天下統一」という目標掲げて戦い、戦いに勝った人が政権を樹立してきました。
「天下統一」を果たすときには攻めの精神が必要ですが、一旦政権を樹立したならば、今度はその地位を守っていかなければなりません。この段階で、守りの精神にシフトできないと人は失敗してしまう、このことを説いたのが貞観政要です。
守りの重要性に関する中国語フレーズ
現代の中国にも、守りの精神の重要性を強調するこのようなフレーズがあります。
kāi diàn róng yì shǒu diàn nán
开店容易守店难。
店を開くのは容易だが、店を守るのはとても難しい。
この言葉は、中国大陸にいる中国人がよく用いる表現です。中国では、自分で事業を始める人がとてもたくさんいます。その反面、事業がうまくいかずに倒産してしまうケースもとても多いのです。
中国のメディア北向財経による統計によれば、中国の若者は失業率が高まっているので、企業に就職するのではなく、自ら起業するケースがますます多くなっているとのことです。
中国の若者の失業問題に関しては こちらの記事をご覧ください。
しかし自ら起業した(攻め)後は、経営を続ける(守り)必要があります。この店に対して、中国で起こっていることをデータを通して見てみましょう。
jù tǒng jì,èr líng èr líng nián wǒ guó chū chuàng gōng sī de cún huó lǜ jǐn yǒu bǎi fēn zhī qī.
据统计,2022年我国初创公司的存活率仅有7%。
統計によれば、2022年の我が国で創業された会社の存続率はわずか7%である。
shèng xià bǎi fēn zhī jiǔ shí sān de chuàng yè zhě, dōu dào zài le chuàng yè de dì yī nián
剩下93%的创业者,都倒在了创业的第一年。
残りの93%の創業者は、創業初年に倒産に直面している。
創業した企業のうち1年以内に93%の企業が淘汰されてしまう…。本当に厳しい世界ですね。开店容易守店难というフレーズが、多くの中国の方から発せられているのもよくわかります。
そういうわけですから、今この時代に貞観政要について知る事には多くのメリットがあります。では、貞観政要に出てくる中国語を見ていきましょう。
貞観政要に出てくる中国語から学ぶ
まずは唐が天下統一を果たしてまもない時期の李世民と、その臣下である魏征(wèi zhēng)、房玄龄(fáng xuán líng)の3人の会話を見てみましょう。
3人がこれからの国の方向性について論じています。攻めの姿勢が大事か、守りの姿勢が大事か、どちらにシフトしていくかに注目してみましょう。
下記例文には创业(chuàng yè)という単語と、守业(shǒu yè)という言葉が出てきます。ここで出てくる创业は、国の創設のことですが、企業など新しい事業を始める時に用いることができます。
守业は国を維持することですが、会社の経営など、起業した後の維持を指して用いることができます。それでは、注目してみましょう。
yī nǐ men kàn, shì chuàng yè jiān nán ne, hái shì shǒu yè jiān nán?
李世民:依你们看,是创业艰难呢,还是守业艰难?
そなたたちの意見では、国を創設することと国を維持することのどちらの方が難しいと思うか?
sú yǔ shuō, chuàng yè wéi jiān. bì xià zài chuàng yè zhī chū, lì liàng zì ruò zhì qiáng,
房玄龄:俗语说、创业维艰。陛下在创业之初,力量自弱至强,
よく言われるように、国の設立はとても困難です。 当初、陛下の力は弱かったところから始めてその後強くなりました。
jīng guò shù bǎi cì zhēng zhàn, cái dàng píng qún xióng, tǒng yī tiān xià, kě jiàn chuàng yè zhī jiān nán.
经过数百次征战,才荡平群雄,统一天下,可见创业之艰难。
そして数百回の戦いを経て他の英雄を倒すことでようやく世界を統一することができました。これが国を創設することの難しさを物語っています。
chuàng yè suī rán jiān nán, dàn shǒu yè gèng wèi jiān nán. qín shǐ huáng, suí wén dì dū céng jiān nán chuàng yè,
魏征:创业虽然艰难,但守业更为艰难。秦始皇、隋文帝都曾艰难创业,
国の設立は難しいですが、国を維持することはさらに難しいことです。 秦の始皇帝と隋の文帝は、どちらも自分の国を立ち上げて世界を支配しようと奮闘しました。
yī tǒng tiān xià, dàn tā men chuàng yè suī rán chéng gōng, dàn què dōu méi néng shǒu yè. suǒ yǐ chén yǐ wéi shǒu yè gèng nán.
一统天下,但他们创业虽然成功,但却都没能守业。所以臣以为守业更难。
設立には成功しましたが、国を維持することはできませんでした。 したがって、より難しいのは国を維持することでしょう。
liǎng wèi jiǎng dé dōu yǒu dào lǐ. yīn wèi chuàng yè jiān nán, shǒu yè yě jué fēi róng yì.
李世民:两位讲得都有道理。因为创业艰难,守业也决非容易。
どちらの言うことも一理ある。国の設立は困難であり、国を守るのも容易ではない。
xiàn zài chuàng yè yǐ chéng, wǒ men yīng gāi hǎo hǎo shǒu yè cái shì.
现在创业已成,我们应该好好守业才是。
今はすでに国は設立されているのであれば、国を守ることに注力すべきであろう。
李世民から学ぶ異なる意見のまとめるためのフレーズ
李世民の問いかけに対して二人が全く異なる意見を述べています。それに対して李世民は、どちらの意見も尊重しつつ、国の方向性を定めています。
提出される意見に対してすぐに否定的な姿勢を取らないというのも、リーダーに求められる資質の一つといえるでしょう。
会議など、複数人が相談をするときには異なる意見が出ることがあります。そんな時に、片側の意見だけ採用してしまうと、気まずい思いをしてしまうことになるかもしれません。両方の意見を尊重しつつ、自分の意見を述べる、そんな技術があったらいいですね。
你们说的都有道理の用い方
この点李世民が述べたフレーズはとても効果的です。
liǎng wèi jiǎng dé dōu yǒu dào lǐ.
两位讲得都有道理。
二人が述べている事はとても道理にかなっています。
有道理(yǒu dào lǐ)とは、「一理ある」とか「道理にかなっている」という意味があります。相手が意見を述べた後に有道理と述べることで、相手の意見が理にかなっていると思っていることを示すことができますね。
この言葉を述べてから自分の意見を伝えると、相手の意見を貴重なものとして受け入れたという姿勢を示せます。その上で、自分の意見を述べることで、話し合いを円滑に進めることができるでしょう。
李世民からは、プラスになる情報をたくさん学ぶことができますね。
正しい模範を示すことの大切さについて
shēn ān tiān xià ān. bì xū xiān zhèng qí shēn, wèi yǒu biǎo zhèng ér yǐng qū, shàng lǐ ér xià luàn zhě.
身安天下安。必须先正其身,未有表正而影曲,上理而下乱者。
いまだかつて、体はまっすぐ立っているのに影が曲がって映り、君主は立派な政治をとっているのに人民がでたらめであったという話は聞かない。
未有(wèi yǒu) とは「いまだかつてなかった」という意味です。簡単にいうと、この言葉は「君主の姿勢さえ正しければ、国も民も平安を保てる」という意味の名言です。
「国の安泰を願うなら、まず己の姿勢を正す必要がある」ということですが、これは家庭やビジネスにおいても同じことが当てはまります。
もしビジネスリーダーであるなら、部下にあれこれ言う前にリーダー自身が正しい模範を示していなければなりません。もし親であるなら、子供にあれこれ言う前に、自分自身が正しい模範を示している必要があります。
まとめ
今回は中国の中でも長く続いた、唐王朝の李世民にフォーカスして中国語を紹介しました。李世民からは、人としても学べる事はたくさんありますし、中国語の面でもプラスになる情報をたくさん引き出すことができます。
今回の記事で紹介しきれなかった名言が他にもたくさんあります。別の記事で歴史と人物から学ぶ中国語-李世民と貞観政要~其の二を紹介していきたいと思いますので、是非そちらの記事もご覧ください。
関連リンク
房玄齢・杜如晦・魏徴・王珪―太宗の四人の優れた側近 このリンクでは、李世民(太宗)の四人の優れた側近についての情報が提供されています。彼らがいかに李世民の政治に貢献したか、また彼らの人物像についても触れられています。
貞観政要 – Wikipedia このWikipediaのページでは、「貞観政要」についての詳細な情報が提供されています。この書物がどのようにして李世民の治世に影響を与えたか、その内容や歴史的意義について詳しく説明されています