中国で生活しているとよく目にするのが、電動バイクで街中を走り回る配達業者です。中国ではデリバリーシステムが充実しており、驚異的なスピードで配達を実現しています。
この制度について理解すると中国社会についてより深く理解することができます。
中国を支える驚異的なデリバリーシステム!外卖の制度
目次
中国の「外卖」とは?
「外卖」はデリバリーのこと
中国の代表的な配送システムといえば「外卖」(wài mài)です。「外卖」とは「出前、デリバリー」のことを指しています。
中国で「外卖」の業者としてよく知られているのが「美团」(měi tuán)と「饿了吗」(èle ma)です。中国の街中ではこれらのバイク便をたくさん見かけます。
この「外卖」は中国社会になくてはならない存在で、中国経済を支える大切な土台でもあります。「外卖」について知ると、今の中国社会情勢についてより理解を深めることができます。
「外卖」の仕組み
中国ではスマートフォンから簡単に「外卖」を頼むことができます。中国語でデリバリーフードを頼むことを「点外卖」(diǎn wài mài)といいます。
アプリストアから「美团」と「饿了吗」をダウンロードすれば、アプリ上で注文が可能です。飲食店が個別に配達のサービスを行うのではなく、購入者と飲食店・配送員をつなぐシステムを提供しています。日本のウーバーイーツと同じ仕組みですね。
中国のデリバリーアプリのユーザー数は、2023年6月時点で5億3500万人となっています。中国の人口が約14億人ですから、国民の三分の一以上が利用していることになります。そのユーザー数は2022年12月と比較して1375万人の増加となっており、その利用者は増え続けています。
中国で「外卖」が浸透する背景
より速い配達の実現
2023年時点で、中国国内のデリバリーの会社では業績の面で「美团」が頭一つ抜けています。
一般的なフードデリバリーは、1回に1つの注文を配達するのが原則です。注文が発生すると、システムは飲食店近くにいるスタッフにスマートフォンを通してオファーを出します。スタッフはこのオファーを受けるかどうかを判断し、商品を受け取り配達を開始します。
「美団」は複数の配達を同時並行で行い、どの配達をすべきかはすべてシステムが指示をする方法を採用しました。AIが受け取りと配達の流れを指揮するというわけです。
バッグの中には5~10個程度まで注文品を収めることができ、常にバッグに商品を入れた状態で、配達の流れを繰り返し、移動し続けるというのが「美団」の働き方です。これにより配達効率が大きく他社を上回るようになりました。
こうしたシステムにより、「美団」はより早い配達を実現させることができたのです。デリバリーを利用する方からすれば、配達時間は早いに越したことはありません。
また「美団」は無人カートやドローンによる配送を開発しており、さらなる配達ネットワークの最適化を推し進めています。こうした最新テクノロジーを駆使してサービスを提供していることが、中国で「外卖」が普及する理由の一つとなっています。
中国の職場環境
中国の職場環境も「外卖」の利用率の高さに影響を与えています。病院の例を挙げてみましょう。
私が診察を受けた病院は市内でも三本の指に入る大きな病院ですが、私の診察を担当した医師が「外卖」で頼んだミルクティー「奶茶」(nǎi chá)を飲んでいました。
「中国の外卖は病院の診察室まで来るのか!?」と非常に驚いたのを覚えています。でもよく考えてみると、中国の病院と日本の病院では環境が異なります。中国の病院には日本とは違い、自動販売機や医師がコーヒーやお茶等を入れる場所がありません。
お医者さんの場合は次から次へと患者が診察に訪れるため、診察室を離れることができません。そんな中で指定した場所までフードを運んでくれる「外卖」は大変便利なのです。
「外卖」を利用する年齢層
中国で「外卖」を注文する年齢層別に比較すると以下の通りです。2023年2月の中商情報網を参考にしたデータですが、どの年齢層が「外卖」をよく利用するのか見てみましょう。
- 18歳以下:5.1%
- 18-25歳:36.1%
- 26-30歳:22.5%
- 31-35歳:16.9%
- 36-40歳:9.5%
- 41-45歳:5.8%
- 46-50歳:2.4%
- 50歳以上:1.7%
jiǔ líng hòu zài wài mài xiāo fèi qún tǐ zhàn bǐ chāo bǎi fēn zhī wǔ shí
90后在外卖消费群体占比超50%。
1990年~1999年に生まれた世代が「外卖」利用者の50%以上を占めている。
統計を見ると若い世代が圧倒的に多くなっています。「90后」(jiǔ líng hòu)と呼ばれる1990年~1999年に生まれた世代はちょうど働き盛りで、スマートフォンの扱いにも慣れています。
自分が出向いて食事をするよりも、出前を仕事場に持ってきてもらえたほうが時間の節約になるので、この世代からの支持を集めています。自分で店を開いている人や外仕事で忙しい人でも、手軽に利用することが可能です。
年齢が高くなるにつれ、スマートフォンの扱いに慣れないこと、自分で調理したものを食べることを好む傾向があるため、利用者が少なくなっています。
「外卖」の配達スタッフの人数
「外卖」の配達スタッフ中国国内にどの位いるのでしょうか?
「美団」の配達スタッフの人数
jié zhǐ èr líng èr èr nián nián, měi tuán wài mài qí shǒu shù liàng dá dàole liù bǎi èr shí sì wàn rén
截止2022年,美团外卖骑手数量达到了624万人。
2022年の時点で「美団」の配達スタッフは624万人に達した。
中国語の「骑手」(qí shǒu)という語は、バイクや自転車の乗り手のことを指します。日本語ではライダーともいいますね。「美団」だけで624万人もいるというのはすごい数です。
千葉県の人口がおよそ628万人ですから、千葉県民がみんな「美団」の配達スタッフになるのとほぼ同じ規模だということです。
ちなみにシンガポールの人口が約600万人なので、「美団」の配達スタッフだけで国を形成することができるくらいの規模です。
「外卖」全体の配達スタッフの数
中国には「美団」の他にもデリバリープラットフォームが存在します。
jié zhì èr líng èr yī nián nián dǐ, zhōng guó líng huó jiù yè zhě yǐ dá èr yì rén.
截至2021年底,中国灵活就业者已达2亿人。
2021年末の時点で、中国のフレキシブルワーカーの数は2億人に達しています。
zhè qí zhōng jiù yǒu yuē yī qiān sān bǎi wàn míng wài mài qí shǒu,
这其中就有约1300万名外卖骑手,
そのうち食品配達の利用者は約 1,300 万人で、
yǐ jīng zhàn dào quán guó rén kǒu jī shǔ de jìn bǎi fēn zhī yī
已经占到全国人口基数的近1%。
これは国の人口の 1% 近くを占めます。
灵活就业者とは?
「灵活就业者」(líng huó jiù yè zhě)は、フレキシブルワーカーのことを指します。フレキシブルワーカーとは、労働時間や労働場所・収入・福利厚生等の雇用形態に柔軟性があり、必要な時だけ働く、フレキシブルワークという働き方のことです。
これには、パートタイムで働く人・自営業・個人経営者のほか、動画制作・ライブ配信パーソナリティ・コピーライター・タレント・弁護士等の一定の知識・技能を持った労働者も含まれます。そしてもちろん、「外卖」の配達スタッフも含まれます。
失業者への救済策となる「外卖」
中国の失業率は非常に高く、中国統計局の報告によれば、2023年6月時点の16歳から24歳までの若者の失業率は21.3%となっています。若者の5人に1人が失業しているわけですから相当な数字です。
他の場所と比較すると、2023年の6月時点の16歳から24歳までの若者の失業率は、米国が7.5%・欧州連合が14.1%となっており、2022年の日本の15歳から24歳までの若者の失業率は4.9%となっています。
こうして比べてみると、中国の若者たちがいかに就職の事で悩んでいるかをよく理解できます。「仕事をしたいけどなかなか見つからない」、そんな人たちの切実な悩みを「外卖」の制度が解決してくれるのです。
「外卖」のスタッフとして働くメリット
「外卖」で働くメリットとして、自分の働きたいときに働くことができるということです。
duō zuò duō ná, shǎo zuò shǎo ná
多做多拿,少做少拿。
仕事しただけ報酬が得られる。
成果報酬型の働き方であるため、時間に縛られずに自由に働くことができるというのが最大のメリットです。
「美団」の配達スタッフとして登録しておけば、自分がしたいときに仕事ができます。中国では電動バイクに乗るのに免許は必要ないので、誰でも簡単に始められます。そのため、副業で「外卖」をする人も多いようです。
大学の卒業生が「外卖」の配達スタッフに
高学歴の若者たちの間で「外卖」の配達をする人が増えてきています。
社会調査データによると、「美団」の配達スタッフのうち20万人が四年制大学の学歴となる「本科学历」(běn kē xué lì)を取得しており、6万人近くが修士号「硕士」(shuò shì)以上の学位を持っていることが示されています 。
このような状況を受け、中国のネットユーザーは冗談交じりにこのように述べています。
shuò shì bó shì dōu qù pǎo měi tuán, wài mài yǐ jīng shì yī gè zhī shì mì jí xíng háng yè
硕士博士都去跑美团,外卖已经是一个知识密集型行业。
修士号も博士号もみんな美団に行っているし、食品配達はすでに知識集約型産業だ。
仕事が見つからない若者たちは「あれだけ頑張って勉強したのになぜ…」という疑問を抱きつつも「外卖」の配達スタッフであれば、自分が努力しただけお金を稼ぐことができます。
どういう形であれ、生きていくためには仕事をしなければなりません。失業率が高い中国の若者たちにとっては「外卖」の配達スタッフという受け皿はなくてはならないものです。
美団研究院がまとめた「2021年上半期美団騎手就業報告」から、「美団」の配達スタッフの平均値を計算してみると、勤務時間は1日3.75時間・月収は4,233元(約7万円)となっています。
この統計を見ると、多くの人が配達スタッフを副業としていることも分析できます。「お金が必要になったから空き時間に外卖で稼ごう」といった感じで仕事をしている人が多いことがわかりますね。
中国では夜食「夜宵」(yè xiāo)を食べる人が多く、夜中の時間帯であっても「外卖」を頼む人は大勢います。
「外卖」の問題点
とても便利に注文でき、就職問題の解決策としても有用な「外卖」ですが、問題点も存在します。
それは配達スタッフの安全性です。「外卖」の場合はスピードが命で、もし遅れて配達するような事があれば、顧客から低評価「差评」(chà píng)を受け、配達スタッフとしての信用が無くなってしまいます。
そうした評価を受けると報酬も差し引かれてしまうため、配達スタッフは時間通りに商品を届けるために必死になっています。
結果として、信号無視・逆走・スマートフォンを見ながらの走行などの危険行為が多く見られるようになっています。極端な例では、電動バイクで高速道路を走行する配達員がいると報告されています。
道路交通法を無視すると、必然的に事故も多くなります。
shàng hǎi měi èr diǎn wǔ tiān jiù yǒu yī míng wài mài yuán shāng wáng!
上海每2.5天就有1名外卖员伤亡!
上海では2.5日に1人の配達員が死傷しています。
配達スピードを上げるために命を犠牲にするような行動が多く見られ、中国国内では議論の的となっています。
まとめ
今回は中国の「外卖」について紹介しました。中国の「外卖」制度はとても発達していて、利用する側も、配達する側もとても便利に活用できることがわかりましたね。
中国の「外卖」制度がこれほどまでの規模に発達する背景には、中国の社会情勢が大きく関係しています。「外卖」は収入を安定させるための貴重な手段となっている反面、「外卖」に起因する問題も多く存在しています。
「外卖」について掘り下げるだけでも、中国について本当に多くのことを知ることができます。是非今後の「外卖」の移り変わりに注目してみてください。