ダイエットはどの国でも需要があります。もちろん中国も例外ではなく、様々な形式のダイエットが受け入れられています。
中国でダイエットが普及する背景には何があるのでしょうか?効果はどれほど期待できるのでしょうか?問題点はないのでしょうか?
中国の減量法:SNS人気ダイエットと古代格言
目次
中国式ダイエット動画の人気の背景
中国語でダイエットの事を「减肥」(jiǎn féi)といいます。YouTubeやTikTokでは中国式ダイエット(中国式エクササイズ)と呼ばれる動画が注目を集めており、中国では様々なダイエットに関心を抱く人が日増しに増えています。
なぜ中国のダイエット紹介動画に注目が集まっているのでしょうか?理由はダイエット方を紹介している人達が非常に魅力的であるということです。
yīn wéi měi nán měi nǚ jiè shào de
因为美男美女介绍的
なぜなら美男美女が紹介しているから
紹介されているダイエット法に特別の効果があるということよりも、インフルエンサーの影響力に起因するところが大きいです。
効果的なダイエット方法については多くの中国人の方が興味を持っています。中国の美人観とスタイルの良さは切っても切れない関係にあります。
中国の美女たちは、その人間離れした美しさゆえに「チャイボーグ」といわれており、そうした方達がSNS上で紹介するダイエット法は多くの人の注目を集めます。
※中国の美人観についてはこちらの記事をご覧ください。
こうした美意識に基づく背景とは別に、中国では肥満が深刻な社会健康問題となっています。
féi pàng lǜ chāo guò 50%
肥胖率超过50%
肥満率が50%を超えている
中国の肥満問題:驚きのデータ
肥満は世界で最も深刻な公衆衛生問題の一つとなっており、2035年までに世界で肥満を抱える人が40億人以上になると見込まれています。
「中国住民栄養・慢性病状況報告(2020年)」によると、中国の成人(18歳以上)の半数以上が肥満になっており、過体重率は34.3%・肥満率は16.4%となっていることが明らかになりました。
肥満と健康は極めて密接な関係があり、肥満により高血圧・高脂血症・糖尿病・痛風・高尿酸血症・脂肪肝などにかかるリスクが高くなります。
さらに心配されているのが、児童の肥満発生率が上昇し続けていることです。データによると、中国では学齢児童の20%が肥満で、うち6歳以下の児童が占める割合は10%に達しており、児童・青少年の心身の健康を脅かす大きな問題となっています。
専門家は、児童・青少年期の肥満の増加傾向が効果的に抑制されなければ、若い世代の健康レベルに大きな影響を及ぼすことになると指摘しています。
中国の肥満率:過去のデータとの比較
中国国家衛生健康委員会が発表した統計によると、成人の肥満率は過去20年足らずのうちに2倍以上に増え、2002年の7.1%から2020年は16.4%になっています。
肥満も含めた過体重の成人は50.7%を占めています。人口14億人の中国で、これは5億人超に相当します。
2002年の時点で過体重の成人は29.9%にすぎませんでしたが、2012年には42%に増えていました。
中国で肥満児が増加する理由
中国語で太った人のことを「胖子」(pàng zi)といいます。
中国の1人あたり国内総生産(GDP)は2006年の2,000ドル台から10年間で8,000ドル程度まで増加し、社会経済の急速な変化は、カロリーや炭水化物系の摂取増加をもたらしました。中国の経済発展が食生活の変化をもたらしたのです。
中国ではハンバーガーやフライドチキンのようなファーストフードが、児童や未成年の間でとくに人気を集めています。多くの国と同様に中国人の食生活が欧米化し、高脂肪・高カロリー・低食物繊維になったことや、運動不足が肥満の主な要因と考えられます。
中小都市にも広まる肥満児の傾向
未成年の肥満問題が中国沿岸部の大都市だけでなく、内陸部の中小都市や比較的裕福な農村部にも広がっています。
今まで都市部と比べて所得向上が比較的遅かった地域の人々が、テレビなどのメディアを通じて、都市部の中間層のライフスタイルを模倣するようになりました。中小都市や農村部で、店名がマクドナルドやケンタッキーを連想させるような地場のファーストフード店が流行しています。
中国の農村部などでは未だに太っていることが「成功」や「裕福」のシンボルという考えが根強く、このような保護者の観念は子供の成長にも影響すると考えられています。
中国ではファーストフードのことを「垃圾食品」(lā jī shí pǐn)(ジャンクフードの意味)と呼んでいるにも関わらず、子供のモチベーションが上がるよう、保護者がテスト後のご褒美として子供をファーストフード店につれていくケースは決して珍しくありません。
運動不足になりがちな生活習慣
中国では子供たちが外で遊びにくい環境になっており、運動不足も深刻な問題となっています。
中国では小学校から大量の宿題が生徒に課されます。大半の小学生は学校から帰ってきた後は習い事に通い、友達と遊ぶ暇などありません。中学・高校になると宿題の量がさらに増え、寝る時間を確保するのが困難なほど忙しくなります。
そして、中国では多くの学生は親に登下校の送り迎えをしてもらっています。電動バイクや自動車で送り迎えしてもらうことがほとんどです。せめて徒歩で登下校すれば運動不足解消の助けになるのですが、登下校時に歩かないという習慣がさらに運動不足を後押ししています。
児童の肥満がもたらすリスク
研究によると、中国児童の糖尿病罹患率はすでに米国の同世代を上回っており、肥満はより高い確率で成人後の糖尿病や脳血管疾患など多くの慢性疾患を引き起します。 未成年の肥満問題を抱える中国にとって、食習慣を含む生活習慣の改善は緊急に解決すべき問題となっています。
中国のメディアも「小皿に分けて盛り付ける」「腹8分目とする」「徒歩で登校する」といった日本の生活習慣に注目したうえで、日本の低い肥満率や長寿に寄与していると述べています。
中国のダイエットに関する言葉とその意味
健康を大切にしスタイルを重視する中国において、肥満を気にしない人はいません。多くの中国の方はダイエットしようと必死になっています。
しかしダイエットを成功させるのは容易ではありません。「ダイエットは難しい」ことを表す言葉があります。
chī bǎo le cái yǒu lì qì jiǎn féi
吃饱了才有力气减
「吃饱了」(chī bǎo le)というのは、よく食事が終わって「おなかいっぱい!」という時に言う言葉です。
中国語の「才」(cái)は「そのときやっと…」という意味があります。おなか一杯になって、その時やっとどうなるのでしょうか?
「有力气减」(yǒu lìqì jiǎn féi)、つまり「ダイエットをする気になる」ということです。
普段からダイエットは必要だと思ってはいても、いざ目の前においしい食事が並べられると食欲が優先されます。「常々ダイエットしようと心に決めるのは、おなか一杯食べ終わった後なのだ」という万人共通の気持ちを表している言葉というわけです。
このように中国でも多くの人がダイエットは難しいと感じています。そんな中国では非常に話題になっているダイエットの方法があります。
中国で話題の減量キャンプ
中国では「减肥训练营」(jiǎn féi xùn liàn yíng)という合宿形式で短期間に体重を減らす「減量キャンプ」が大衆の注目を集めています。自力では減量できないという人が、ダイエットを目的とした合宿に参加することで、短期間での減量を成功させるというものです。
そこではダイエットに有効な様々なエクササイズを受けることができ、食事も厳格に制限されています。自分の意思でダイエットできなくても、こうした環境に身を置くことによってダイエットを実現させることができるということです。
一見とても効果がありそうなダイエットの方法ですが、問題点も少なくありません。
インフルエンサーに降りかかった悲劇
2023年の出来事ですが、河南省出身の自称インフルエンサー翠花さんが減量キャンプ参加後に気分が悪くなり、2日後の朝に亡くなったというニュースが報道されました。
家族が中国版TikTok「抖音」でこの事実を明かし、その後中国ネットメディアなどがこのニュースを伝えています。死因は明らかにされていませんが、急激な減量が原因ではないかとみられています。
体重が156キロあった翠花さんは「抖音」のアカウントをスタートした時に「100キロ痩せる!」と宣言しました。その後陝西省西安市などで減量キャンプに度々参加し、115本の動画を投稿していました。
【動画の内容】
そのほとんどはキャンプの生活・食事・激しいエクササイズの様子を伝えたもので、フォロワー数は9000人を超えていました。
減量キャンプでは有酸素運動・ウエイトリフティング・バトルロープを使った激しい筋力トレーニングなどを行い、栄養のバランスを考えた食事が提供されていたそうです。翠花さんは最初の60日間で27.5キロ、さらにその後の6か月で11.5キロの減量に成功しました。
その間減量キャンプの宣伝を行うため、夜間にトレーニングの様子をライブ配信し、疲れた表情を見せることもあったといいます。
注目されているキャンプ参加中の食生活ですが、穀物・キャベツ・卵・フルーツなどを摂取していたものの、食事の量を極端に制限していたことも明らかになっています。
減量キャンプ参加者が死亡したニュースはこれが初めてではなく、2019年には湖北省のキャンプに参加していた体重74キロの22歳女性が急性脳梗塞を発症して亡くなっています。また2021年には黒竜江省で、90キロの20歳女性が減量キャンプで亡くなっています。
減量キャンプに対して指摘される問題点
各地にある減量キャンプはネット上で参加者を募集していますが、「2か月で35キロのダイエットができる!」「3か月で46キロの減量に成功!」といった極端な宣伝が目につきます。
一部の減量キャンプでは、参加者の減量ペースと指導者の収入が連動しています。例を挙げると、参加者が1か月以内に体重を10%減らすとコーチに200元(約4,000円)のボーナスが支給され、逆に10%に達しないと給料から200元が差し引かれる仕組となっています。
中国国内のSNSで減量キャンプの検索をすると「内容をしっかり確認し、虚偽の宣伝に注意してください」という表示が出るようになりました。中国メディアは「短期間で大幅にやせると宣伝するクレイジー式ダイエットを見直すべきだ」と警鐘を鳴らしています。
減量キャンプ参加後のリバウンド
実際にダイエットに成功した例もあります。ただし、それらは一時的に環境を変えることで得られた減量効果。生活習慣そのものが改善されたわけではないので、自宅に戻った後再び元の肥満体系に戻ってしまうという報告も数多く寄せられています。
中国語でダイエット後のリバウンドの事を「反弹」(fǎn tán)といいます。
ダイエットキャンプに参加していた12歳の少年は「お腹すいた。ハンバーガーが食べたい。」とこぼしていました。こうした子供たち合宿を終えて家に帰り、元の食生活になると再び肥満になり、結果として合宿に参加していた子供たちの3分の1が戻ってくるそうです。
運動・健康科学の専門家は「減量はせいぜい1週間に500グラムから1キロ以内が合理的な範囲。飲食を制限された環境で急激にやせても、日常生活に戻れば運動量も減るので、体重は増えてしまう。それでキャンプにまた通い、太ったりやせたりを繰り返してしまう」と指摘しています。
急な体重の変化は身体に負担をもたらします。
ダイエットの普遍的な真実
実際のところ、どの国のお医者さんでも言っていることは共通しています。栄養バランスを考えたものを食べ、食べすぎないようにし、よく有酸素運動(有氧运动;yǒu yǎng yùn dòng)を行ない、地道におなかの脂肪を燃やしていくしかないというわけです。
ダイエットに国境はありません。中国人も日本人もスリムな体を手に入れるための努力は同じです。
中国の「欲速则不达」(yù sù zé bù dá;急がば回れ)ということわざに言い表されているように、ダイエットを成功させるためには、成果を出そうとして急ぐよりも、辛抱強く日々の生活習慣を改善し続けることが大切です。
まとめ
今回は中国の肥満率とその原因、さらに中国で話題を呼んでいるダイエットの方法について紹介しました。
本サイトではどのダイエット法が効果的かを論じることはしません。それでも、中国で実際に生じていることをお伝えすることにより、皆さんのお役に立てるのではないかと思い記事を掲載しています。
ダイエットを考えている方は、本記事を参考に無理のない方法でダイエットに取り組んでください。