皆さんは、羊を多く食べる国と聞いて、どこを思い浮かべますか?意外に思うかもしれませんが、中国は非常に多くの羊を食べる国です。今回は中国における羊の位置づけと、中国で食べられている羊料理について紹介します。
中国屋台料理の王者:烤羊肉串のすべて
目次
中国は世界一の「羊肉大国」
世界で最も羊の生産量が多い国をご存知でしょうか?2021年の羊の生産量ランキングを見てみましょう。
- 1位:中国・生産量2,622トン(世界全体の26.3%)
- 2位:オーストラリア・生産量657トン(世界全体の6.6%)
- 3位:ニュージーランド・生産量454トン(世界全体の4.6%)
こうして見てみると、中国では羊がたくさん飼育されていることがわかります。イメージ的にはオーストラリアやニュージーランドのほうが多い感じがしますが、中国の羊の生産量は世界の4分の1を占めていて、オーストラリアやニュージーランドの4倍となっています。
そんな中国ですが、実は羊の輸入も非常に積極的に行っているのです。
中国の羊の輸入量
2021年の羊の輸入量ランキングも見てみましょう。
- 1位:中国・輸入量410トン(世界全体の35.6%)
- 2位:アメリカ合衆国・輸入量147トン(世界全体の12.8%)
- 3位:フランス・輸入量104トン(世界全体の9.1%)
輸入量もダントツで中国が多くなっていて、世界全体の3分の1を占めています。輸出量を見てみると、1位がニュージーランドで2位がオーストラリアになっていますが、中国は上位にランクインしていません。
中国は羊の生産量が世界で一番多いにも関わらず、羊の輸入量も世界一ということですから、中国は世界中の羊をかき集めているわけです。これらのデータから、中国の羊の需要がいかに高いかということが見て取れます。
中国での羊の食べ方
中国語で羊の肉の事を「羊肉」(yáng ròu)といいます。中国の「羊肉」という言葉には、羊とヤギの両方が含まれます。羊は「绵羊」(mián yáng)で、ヤギは「山羊」(shān yáng)といいます。
世界一の羊の生産量と輸入量を誇る中国ですが、中国では羊をどのようにして食べているのでしょうか?
- 西安名物の羊の背骨鍋「羊蝎子」(yáng xiē zi)
- 焼いたナンのようなものをちぎりいれる「羊肉泡馍」(yáng ròu pào mó)
- 羊の内臓などが全部入っている「羊杂汤」(yáng zá tāng)
- 羊のスープ「羊肉汤」(yáng ròu tāng)
その中で最も多くの人に親しまれているのが「羊肉串」(yáng ròu chuàn)です。
「羊肉串」とは?
「羊肉串」は中国の「露天摊子」(lù tiān tān zi;露店屋台)の中でも欠かせない料理です。
焼き鳥より少し大きめのサイズに切った羊の肉を串に刺して炭火で焼いたもので、一度その香ばしさを味わうと病みつきになること請け合いです。
炭火に炙られた「羊肉」(yáng ròu)の香ばしい煙、燻された肉の油と香辛料の独特の香りが漂ってくるだけで、摊子のある通りへ引き寄せられていく。これが「烤羊肉串」(kǎo yáng ròu chuàn;羊肉の串焼き・シシカバブ)の魅力です。
「烤羊串」はビール好きにはたまりません。お酒のおつまみとしてピッタリです。
また「中医」(zhōng yī;中国医学)では、羊肉に体を温める働きがあるため、秋から冬に食べると良い食品だとしています。
羊の独特の臭み「腥味」
「羊肉」を食べることに関して多くの人が気にするのが、独特の臭みです。中国ではこの臭みのことを「腥味」(xīng wèi)といいます。「腥味」という言葉には羊の肉に限らず、色々な生臭い匂いを指して用いられます。
肉類や海鮮類に対して「腥味」と言う時もありますし、肉類は「肉腥味」(ròu xīng wèi)、魚類は「鱼腥味」(yú xīng wèi)と言う時もあります。
豆類は「豆腥味」(dòu xīng wèi)、乳類は「奶腥味」(nǎi xīng wèi)、汗は「汗腥味」(hàn xīng wèi)などと言ったりします。
「羊汤」(yáng tāng;羊肉の寄せ鍋スープ)などの煮込み料理にすると気になる羊肉独特の臭みも、「烧烤」(shāo kǎo;炙ったり焼いたりする肉料理法)にすると気にならなくなります。
羊肉料理に用いられる香辛料
羊肉独特の臭みを消し、香ばしさを極限まで引き出す決め手が香辛料です。
「厨师」(chú shī;料理人)は羊肉串を炭火で焼きながら「孜然粉」(zī rán fěn)をメインに「辣椒粉」là jiāo fěn;唐辛子)や「花椒粉」(huā jiāo fěn;山椒の粉)を肉の両面全体にたっぷりと何度もふりかけるのです。
この「孜然」(zī rán)は「维吾尔语」(wéi wú ěr yǔ;ウイグル語)です。中国語では「安息茴香」ān xī huí xiāng)または「小茴香」(xiǎo huí xiāng)といい、日本ではクミンシード)として知られています。
この「孜然」をメインに「大料」(dà liào)や「大茴香」(dà huí xiāng)とも呼ばれる「八角」bā jiǎo; スターアニス)、「桂皮」(guì pí;シナモン)などを粉末にして調合したものが「孜然粉」なのです。
中国では「市场」(shì chǎng;市場)の香辛料店や「超市」(chāo shì;スーパーマーケット)で「孜然粉」を購入できます。
孜然粉の成分と作り方
実は日本でも一般のスーパーで調達できる身近な材料で、自家製の「孜然粉」を好みの配合で作ることができます。一例をご紹介しましょう。
- クミンシード 40g
- 八角 4g
- シナモン 4g
- 皮を取った落花生 10g
フライパンを弱火にかけ、クミンシードと八角を入れて香りが出るまで約2分炒めます。時間が来たら取り出して自然に冷ましましょう。
温度が冷めたらすべての材料をミルサーに入れ、2~3gの塩と砂糖・適量の胡椒・カレー粉10gを加えてミルサーのスイッチを入れます。
「羊肉串」の焼き方:プロのテクニック
もし手に入るなら、冷凍ではなく新鮮な生の羊肉を用意しましょう。豚のバラ肉や鳥のモモ肉でも代用できます。
ボールにためた清水で肉をていねいに洗います。脂の多い部分の肉と脂の比較的少ない肉に分けて、一口大サイズに切り分けてください。
串切りにした「洋葱」(yáng cōng;タマネギ)・「大葱」(dà cōng;長ネギ)・「生姜」(shēng jiāng;ショウガ)の千切りを肉と一緒に混ぜ合わせ、好みの量の塩少々と醤油・少量の水を加えて15分ほど「腌渍」yān zì;漬け込み)ます。
できればステンレス製の長めの串を用意し、脂身の多い肉と少ない部分の肉を交互に刺していきましょう。
炭火の温度調整
バーベキューの要領で羊肉串を焼いていきますが、焼き方に工夫があります。
串を1本ずつ並べるのではなく、10本ほどをまとめて手に持ち、扇形のように先をわずかに広げて網に載せます。肉同士が少々くっついていても構いません。
肉の表面が乾燥しすぎてしまわないように、焼きながら刷毛で油を塗っていきます。肉から油が滴るくらいまで焼けてきたら、自家製の孜然粉・辣椒粉・花椒粉をたっぷりふりかけ、裏面も同様にします。
最後にもう一度仕上げの孜然粉・辣椒粉・花椒粉をふりかけて完成です!
中国で「羊肉串」を食べるには?
中国では、国を挙げて環境問題に取り組んでおり、「烧烤の煙が大気汚染の要因になる」とか、「屋台販売は不衛生だ」などの声が上がったため、各地で路上販売が制限されるようになっています。
規制の緩い地域では屋台で食べることができますが、都市部においては路上販売がほぼ見られなくなりました。
とはいえ、中国で食べることができる場所はたくさんあります。「新疆〇〇羊肉串」という看板を出しているお店では、路上ではなく店内で羊肉串を食べる事ができます。
その中でも「新疆烤羊肉串」(xīn jiāng kǎo yáng ròu chuàn)は中国全土にその名を馳せるほど有名なお店で、各地にある「新疆特色料理店」(xīn jiāng tè sè liào lǐdiàn;新疆ウイグル料理店)の看板メニューでもあります。
このように中国では、ほぼすべての都市で羊肉串を食べることができるようになっています。
残念なことに「看板に偽りあり」と言う言葉の通り、実は羊肉ではない別の肉を使っていると批判される店舗もあります。今はアプリなどでお店の評価を検索できるので、お店に入る前に地元の人からの評判を調べてみることをお勧めします。
地域ごとの「羊肉串」の特徴
同じ羊肉串であっても、羊肉の質もピンからキリです。どうせ食べるのであれば、やはりおいしいものを食べたいですよね。
中国の検索エンジン「百度」で調べてみたところ、4つの地域がおススメに挙がっていました。地域ごとに異なる特色があります。
【新疆ウイグル自治区:「羊肉串」の長い食文化を有する地】
新疆ウイグル自治区ではたくさんの羊を飼育していますが、ナンやレーズンの名産地でもあります。これらの食材と合わせて「羊肉串」を独特の味わいに仕上げています。
孜然粉・辣椒粉・花椒粉
内モンゴル自治区の羊肉は新鮮で柔らかく、脂肪の分布が均一で味が優れています。 内モンゴルの「羊肉串」には、ネギ・ニンニク・コリアンダーなどの薬味と独特のソースが使われ、羊肉の串に豊かな草原の風味を与えます。
【陝西省:羊肉と食文化の融合】
陝西省の「羊肉串」は厳選された素材を使用し、羊肉と脂の組み合わせに重点を置き、食感に優れています。みかんの皮やフェンネルなど、地元の特別な調味料を加えて風味を豊かにしています。
【四川省:熱と辛さの完璧な組み合わせ】
四川の「羊肉串」はスパイシーな美味しさで知られていますが、その秘訣は厳選された新鮮な羊肉と、四川特産の唐辛子と山椒の組み合わせにあります。火加減も特徴的で、外は焦げ目、中はトロトロになるまで焼き上げるというもので、いつまでも飽きのこない味わいが楽しめます。
こうした地域ごとに味付けや焼き方の特徴について知っておくと、実際に中国に行く時に役立ちます。
中国国内で羊が多く飼育されている地域
なかなか一つの場所に絞り込めないと思う場合は、肉の新鮮さから選ぶと良いでしょう。そうすると、羊が多く飼育されている場所に行くのが1番です。中国ではどの地域が羊を多く飼育しているのでしょうか?
2022年の時点では、トップ10は順番に内モンゴル自治区・新疆ウイグル自治区・河北省・甘粛省・山東省・河南省・四川省・安徽省・雲南省・湖南省となっています。
中でも内モンゴル自治区は110万トン以上・新疆ウイグル自治区は60万トン以上です。3位以下は全て40万トン以下なので、羊の飼育量では内モンゴルと新疆ウイグル自治区が群を抜いて多くなっています。
「百度」などのウェブ上でも、羊の肉を楽しみたいのであれば、これらの場所に行くべきだという意見が多く見られます。
内モンゴル自治区では羊だけでなく、豊かな自然が織り成す素晴らしい景色・モンゴル族の独特の生活様式・大草原を楽しむことができます。
新疆ウイグル自治区もウイグル族のエキゾチックな文化や、広大な砂漠の景色を楽しむことができます。ブドウ・ハミ瓜・イチジク、ザクロ、胡桃、杏などの特産地としても有名です。
中国は多民族国家で56の民族が存在しています。漢民族以外の民族の文化に触れることも中国旅行の魅力の1つです。
日本で「羊肉串」を食べるには?
「羊肉串」は食べてみたいけど、自分で作るのは大変だし、中国に行くこともできない…。そんな方に、日本で食べられる「羊肉串」について紹介します。
ネット上でとても注目を集めているのが東京千代田区神田の「味坊」です。独特の下味が美味しさの秘訣です。店主の羊肉の美味しさを広めたいという並々ならぬ熱意に心を動かされた羊肉を愛する人たちが集まり、ここでは羊肉を巡るコミュニティが形成されています。
「行きたいけど東京まではいけないよ…」と思う方でも大丈夫です。ここのお店では「羊肉串」の通販サービスも提供しているということなので、取り寄せることができます。
「羊肉串」をまだ食べたことのない方は「百聞は一見に如かず」、一度試してみることをお勧めします。
「味坊」のHP:https://www.ajibo.jp/
まとめ
今回は中国において羊肉がいかに愛されているかということについてお伝えしました。中国の文化は本当に奥が深いです。中国全土で食べられている「羊肉串」についても紹介しました。
実際に中国に行って食べるのもよし、日本のお店で食べるのもよし、自分で作るのもよし、是非この素晴らしい食文化を堪能してみてください。