中国人が気になる日本ならではの行動の一つが土下座です。日本のアニメ・映画・ドラマなどを視聴すると時折出てくる土下座のシーンが気になる中国人は少なくありません。なぜ中国人は土下座にそれほど違和感を覚えるのでしょうか?
日中謝罪文化の比較:土下座と中国の謝罪スタイル
目次
日本の土下座
そもそも土下座とは何でしょうか?
歴史と現代における意味
土下座の「土」は地面の意味で、「下座」は座っているところを下り、床などにひざまづき額を地面にすりつけて礼をすることを意味しています。
土下座は地面にはいつくばって礼をすることを指し、貴人に対する最高度の敬意を表す礼法の事です。
元々は土下座に謝罪の意味は含まれていませんでした。土下座に謝罪の意味が加わったのは、第二次世界大戦後のことです。「土下座=謝罪」という観点が受け入れられるようになったのは割と近年の話です。
なぜ土下座が謝罪の意味で用いられるようになったのか、私も興味があったので調べてみましたが、確定的な理由を見つけることはできませんでした。
日本で一世を風靡したテレビドラマの『水戸黄門』のクライマックスで、登場人物が葵の紋所に畏れ入っている時に土下座をしている姿を見た視聴者が、土下座を謝罪の意味としてとるようになった可能性を指摘している方もいらっしゃいます。
由来の真偽はともかく、現時点において日本社会では土下座が謝罪の最大表現として認識されています。
中国には土下座はあるの?
中国には土下座という語がありませんが、似たような動作はあります。「ひざまずく」は中国語で「跪」(guì)または「下跪」(xià guì)です。また「額を地につけて礼拝する」は「磕头」(kē tóu)になります。
「下跪」や「跪下」(guì xià)は現代人も使う表現ですが、「磕头」は中国の伝統的な行事や時代劇などでしか見かけません。どちらも日本の土下座とは意味合いが異なります。
一度の動作で「ひざまずき、頭を地につける」姿勢は、日本の一種の礼儀形式だと中国の辞書で説明されているのですが、確かに中国ではあまり見かけない姿勢です。
zài rì yǔ zhōng tǔ xià zuò shì guì dì kòu shǒu,shuāng tuǐ bìng lǒng guì dì ér kòu shǒu zhì jìng,
在日语中土下座是跪地叩首,双腿并拢跪地而叩首致敬,
日本語の土下座とは地面にひざまずき頭を地につけて拝礼する、両膝をそろえて地面にひざまずき頭を地につけておじぎをして敬意を表することです。
zhè biǎo shì zuì dà chéng dù de dào qiàn huò jìng yì,
这表示最大程度的道歉或敬意,
これは謝罪あるいは敬意の最大限の表現で、
qǐng qiú liàng jiě mǒu jiàn shì,huò zhě qiān bēi de xiàng duì fāng kěn qiú yuán liàng děng。
请求谅解某件事,或者谦卑地向对方恳求原谅等。
ある件を了承してくれるよう請い願うこと、或いは相手に許しを謙遜に懇願すること等を指します。
中国の「跪下道歉」
中国のドラマや映画を見ると、登場人物が必死に謝罪したりや懇願したりするシーンで地面に膝をつく場合があります。
つまり最上級の謝罪表現が「跪下道歉」(guì xià dào qiàn;ひざまずいて謝罪する)なのです。この動作は日本の土下座によく似ています。
「ひざまずく」の意味で用いられる「下跪」(xià guì)と「跪下」(guì xià)は、時に同じような使われ方をしますが、実は明らかな違いがあります。用法と共に見てみましょう。
xià guì yī bān shì zì yuàn,zhǔ dòng xíng wéi,yī ge dòng zuò。
下跪一般是自愿,主动行为,一个动作。
下跪は一般的に自分から進んでする、自発的な行為であり、一つの動作です。
guì xià yī bān shì bié rén de yāo qiú,bèi dòng xíng wéi,yǒu shí shì yī ge mìng lìng。
跪下一般是别人的要求,被动行为,有时是一个命令。
跪下は一般的に他者に求められる受け身の行為で、ある場合は命令でもあります。
中国ではこうした謝罪の形式が存在しているとはいえ、実際に目にすることはほぼまれです。こうした動作よりも、償うための行動の方が重視される傾向にあります。
中国人が感じる日本のサービスに対する違和感
中国では基本的にひざまずくことをしないため、日本の高級旅館や料亭などの店員が、客のそばにひざまずいてサービスを提供するのを見て違和感を覚えるようです。ウェブ上でこんな質問を投げかける人たちもいます。
rì běn cān tīng jié zhàng shí fú wù yuán wèi shén me yào xià guì?
日本餐厅结帐时服务员为什么要下跪?
日本のレストランで支払いをする際に従業員はなぜひざまずくのですか?
rì běn rén wèi hé xǐ huan guì shì fú wù? nán dào guì zhe bù téng ma?
日本人为何喜欢跪式服务?难道跪着不疼吗?
日本人はなぜひざまずいてサービスするのを好むのですか?ひざまずいて痛くないのでしょうか?
正座に慣れている日本人とは異なり、椅子文化の中国人にとって膝を曲げるのは苦痛です。しゃがむ、あるいは膝を曲げる動作そのものが痛いですし、謝罪や懇願の必要がなければひざまずくことなどない中国人からすると確かに不思議かもしれません。
土下座は相手に負けを認めさせ、恥をかかせる目的の場合もあるため、心からの謝罪というよりパフォーマンスに過ぎなくなってしまうという人もいます。
中国人に限りませんが、謝罪する際に重視するのは形式や姿勢ではありません。誠意のない謝罪なら土下座したとしても無意味だというわけです。
他の文化における謝罪表現
欧州の方が日本の土下座についてこのように述べたことがあります。「日本だと芋虫のように体を丸めれば何でも許してもらえるでしょう?」
少し極端な意見ではありますが、土下座に対する外国の方の考え方がよく表されています。とはいえ諸外国にも謝罪の際にふさわしいとされる動作があります。
イギリスではお辞儀で誠実さを見せるため、決して目線を相手からそらしません。ドイツだと握手を求め、握手すれは和解を意味します。南アジアや東南アジアでは手を合わせます。
アクションで謝罪を表現する事はありますが、欧米では基本的に言葉で相手に納得するまで話し合うのが大原則です。
中国の謝罪スタイル:形式より誠意
中国ではどういう謝罪が望まれているのでしょうか?中国のウェブサイトで検索すると次のように説明されています。
xiān yào liǎo jiě zì jǐ wèi shén me zuò cuò le,yào gǎn yú chéng dān zé rèn,
先要了解自己为什么做错了,要敢于承担责任,
まず自分がなぜ間違ったのかを見極め、責任を取る覚悟を決め、
rán hòu yòng qīng chu de cí yǔ zhēn chéng de dào qiàn,hái yào zhī cuò yào gǎi。
然后用清楚的词语真诚地道歉,还要知错要改。
はっきりとした言葉でまごころを込めて謝罪し、さらに間違っていた点は改善を図りましょう。
中国では謝罪に関して「責任を取る覚悟」が求められます。言葉で謝意を伝えるだけでなく、実際の行動で償うことが重視されています。
日本と中国の謝罪に対する感覚の違い
日本と中国の文化の違いによって、謝罪に対する感覚にも大きな違いがあります。日本で使う言葉をそのまま直訳するイメージで使用すると、中国の方には不思議がられることがあります。
両者の違いを認識できていないと、「中国人は決して謝らない」と単面的に決めつけてしまうことになりかねません。
中国では謝罪をするという行為自体、日本よりも「責任が大きい」ものとして考えられています。つまり、中国で謝罪表現である「对不起」(duì bu qǐ)と言うときは、「私の責任です」というほど重要な局面です。
日本人は混雑する道などで手や肩が軽くぶつかってしまう時などにも「すみません」や「ごめんなさい」と言いますが、中国では基本的にこちらに悪意や責任のない場合は「对不起」は使用しません。
上に挙げたような、ちょっとした謝罪のときには「不好意思」(bù hǎo yì si)と気軽に言ったりもします。「不好意思」の用い方については後ほど取り上げます。
日本でいう「ごめんなさい」の直訳としてよく表記されている「对不起」に関しては、親しい間柄で使用すると「よそよそしい」という印象を与えてしまうこともあります。
仲良くなりたい人にとてもかしこまった敬語で話されてしまったときに壁を感じてちょっとしたショックを受けることがあります。親しい人に何か頼みたいことがあるときなどは、「悪いんだけど…」といったニュアンスではなく、ストレートに希望を伝えましょう。
反対に、中国人の友達があまり謝罪をしないからといって、軽んじられているわけではありませんので安心してください。
「すみません」の多面性
日本語と中国語での使い方
「すみません」は日本語の日常会話では、とても使用頻度の高い言葉です。他人に話しかけるときにはまず「すみません」と一言断ってから話しますし、会社で部下に何か頼む時だって「すまないけど~やってくれるかな?」などと言います。
日本語に限らず中国語でも何かを訊ねたり頼んだりするときには「すみません」と一言そえるのが普通です。ちょっとした気配りが円滑な人間関係の基本なのは、どこの文化でも同じです。
「すみません」を中国語に直訳すると「对不起」(duì bu qǐ)になりますが、これは「ごめんなさい」に当たる言葉ですから、別に謝っているわけではないので用いることができません。
「不好意思」と「麻烦你」の使用例
ごめんなさいの意味を除いて日本語でよく使う「すみません」に当たる中国語は、「不好意思」(bù hǎo yì si)と「麻烦你」(má fán nǐ)です。
bù hǎo yì si,qǐng wèn xīn qiáo chē zhàn zěnme qù
不好意思,请问新桥车站怎么去?
すみません、新橋駅にはどう行ったらいいのでしょうか?
bù hǎo yì si,kě yǐ diǎn caì le ma
不好意思,可以点菜了吗?
すみません、注文してもいいですか?
má fán nǐ,nà běn shū kě yǐ ná gěi wǒ ma
麻烦你,那本书可以拿给我吗?
すみません、そこの本を取ってもらえませんか?
má fán nǐ kě yǐ míng tīan zài lái ma
麻烦你,可以明天再来码?
すみません、明日また来ていただけませんか?
「麻烦你」はお願いして何かやってもらうニュアンスがあり、英語でいう「do me a favor」みたいな感じですね。他人に何か話しかけるときの「すみません」に当たる中国語は「不好意思」の方が適当です。
道を通してもらうときの「すみません」
qǐng ràng yī xià
请让一下。
すみません、ちょっと通してください。
人を掻き分けて「来来来!」(lái lái lái)と言う人もいますが、こちらは「ちょっとどいてどいて!」というニュアンスになります。「请让一下」を使ったほうが丁寧です。
お礼を言われた時の表現
「麻烦你」や「不好意思」と頼まれたり問われたりしたことをやってあげたら、お礼を言われますね。相手にお礼を言われたら、どう応えたらよいでしょうか?
「どういたしまして」は中国語で「不客气」(bú kè qi)とか「没什么」(méi shén me)と言います。
A:bù hǎo yì si lǎo shì má fán nǐ
不好意思,老是麻烦你。
いつも迷惑かけて、すみません 。
B:méi shén me,bú yòng nà ma kè qi
没什么,不用那么客气。
いいから、そんなに気を使わないで。
まとめ
今回は土下座と中国の謝罪スタイルについて紹介しました。日本と違うところはたくさんありますね。ただ共通点もあり、特に気配りに関する事柄には共通するものが多いです。
大事なのは相手の習慣や考え方を理解することです。「ここは自分と違うな」と思ったときは、相手を敬遠してしまうのではなく、その背景にある理由を知るようにしましょう。理由を理解できると、違いがあってもそれを受け入れられるようになります。
相手を深く理解し尊重すること、それが外国語上達のために欠かせない秘訣です。