中国の学習者にとって「壁」となる文法、それが使役文です。中国語初心者の方にとって難しい文法ですが、中国語をある程度話せるようになった方でも正確に使いこなすことが難しいものです。
今回はそんな中国語の使役文について紹介します。
中国語使役文の完全マスターガイド:「让」から「请」まで
目次
使役文とは何か?
はじめに使役文とは何か?その意味を把握しておきましょう。こうした基礎をはっきり理解しておくと、後の成長速度が非常に早くなります。使役文の意味については、日本語のウェブサイト上では次のように説明されています。
日本語では「せる」「させる」を使って、使役の意味を表します。
使役とは「使(=させる)、役(=仕事、行動)」のことです。 つまり、使役とは、誰かに何かをさせることを意味します。
動詞の使役形(例:「書く」→「書かせる」、「食べる」→「食べさせる」)を用いながら、主語が第三者に対してある事態が起こるように仕向けることを表した文のこと。
まとめると「誰かに何かをさせる」文が使役文です。
日本人学習者にとって難しい点
上の説明でも確認したように、日本語の使役文に用いられるのは「せる」「させる」です。しかし中国語には使役文に用いられる使役動詞がたくさんあります。
中国語の使役動詞には「让/叫/请/使 /给/令」等の語が用いられ、これらの使役動詞に完全に対応する日本語はありません。
「让/叫/请/使 /给/令」の意味を日本語に訳すと全て似たような訳になってしまい、それぞれの言葉の違いが分かりにくいのです。これが日本人学習者を困惑させる要因となっています。
中国語の使役文の攻略ポイント
中国語の使役文は日本語のそれと異なるというだけで、決して日本人には修得できないということはありません。ポイントさえ抑えれば確実に修得することが可能です。以下に中国語の使役文の攻略ポイントをまとめました。
- 使役文はコツさえつかめば修得可能
- まず「让」をマスターする
- その後「让」とその他の使役動詞の違いを理解する
中国語の使役動詞がたくさん存在するとはいえ、それらは全て同じ「使役動詞」です。文法上の語順はほぼ同じなので、そのうちの一つをマスターしてしまえば、あとはそれぞれの使役動詞の違いを理解して入れ替えるだけです。
最初から6つ全てを覚えようとするのではなく、まずは1つだけを徹底的にマスターするようにしましょう。このように考えるだけで一気に気が楽になりますね。
基本の使役表現「让」からマスターする
使役動詞の「让」は使用頻度が高く、様々な状況で用いることができる便利な言葉です。まずは「让」の用い方を徹底的に練習してください。
基本の使役文
使役文の語順を見ていきましょう。まずは、最も単純な形の使役文の型を紹介します。
让 + 目的語(=主語) + 動詞
ràng wǒ kàn yī xià
让我看一下
私に見せてください
ràng wǒ kǎo lǜ yī xià
让我考虑一下
私に考えさせてください
これが使役文の基本的な語順です。これらのフレーズは、後のステップで別の使役動詞と比較するときに用いますので、例文を反復練習して身体に叩き込みましょう。
上に挙げた構文の文頭に主語が入ると次のようになります。
主語 + 让 + 目的語(=主語) + 動詞
zhōng wén lǎo shī cháng cháng ràng wǒ men bèi shū
中文老师常常让我们背书。
中国語の先生はいつも私たちに暗記をさせます。
wǒ bà ba bú ràng wǒ qù rì běn.
我爸爸不让我去日本。
父は私を日本に行かせてくれません。
「让」を使った様々な表現
「让」は日常生活の様々な場面で使用されます。丁寧な言い回しもありますので、すぐに使えるようにしておきましょう。
【フォーマルな表現】
zǒng jīng lǐ jué dìng ràng tā fù zé zhè ge xiàng mù
总经理决定让他负责这个项目。
会社は彼にこのプロジェクトを任せることを決めました。
【謝罪を含んだ丁寧な使役】
「让」は目下の人が目上の人に対して使った場合、謝罪を含んだ丁寧な使役になります。丁寧な謝罪の場合「我」は用いません。定番フレーズとしてよく用いられるので、このまま覚えておきましょう。
duì bùqǐ, ràng nín jiǔ děng le.
对不起,让您久等了。
すみません、お待たせしました。
ràng nǐ fèi xīn le
让你费心了。
ご心配おかけしました。
勧誘表現として用いられる「让」
「让+人+動詞」の形は英語の使役表現の「let+人+動詞」と同じ様な構造です。
英語でlet+usを短縮してLet’sと言えば「~しましょう」という勧誘表現になりますが、中国語でも「让我们一起去」(ràng wǒ men yì qǐ qù)と言えば「一緒に行きましょう」となります。ですから「让我们」は勧誘表現となります。
「叫」を使った使役表現
「让」と「叫」には共通点が多いですが異なる点もあります。「让」と「叫」の使い分けは、下記のようになっています。
- 让 → 話し言葉、書き言葉
- 叫 → 主に話し言葉(やや命令口調)
zhōng wén lǎo shī cháng cháng jiào wǒ men bèi shū
中文老师常常叫我们背书。
中国語の先生はいつも私たちに暗記をさせます。
この例文は、上述の「让」の説明の際に用いたフレーズの「让」を「叫」に置き換えただけですが、この言い方だと、先生が生徒に「命令してさせる」というニュアンスが強くなります。
目上の人にお願いする「请」
「请」はもともと「~してください」という意味の動詞で、目上の人やあまり親しくない人に勧めるときに「请」が使われます。英語のPleaseのように、動詞の前に付けて丁寧な感じのお願いになります。
そこから派生して、目上の人やあまり親しくない人に何かお願いするときにもこの「请」を使います。
wǒ men qǐng lǐ lǎo shī lái fā biǎo yǎn jiǎng
我们请李老师来发表演讲。
私たちは李先生にスピーチをしてくれるようにお願いしました。
wǒ men qǐng wáng lǎo shī péi xiǎo lǐ
我们请王老师陪小李
私たちは王先生に、李さんに同行してもらえるようお願いしました。
「使」と他の使役動詞との違い
「使」には「~させる(ある原因で非動作的な結果をもたらす)」という意味があります。「让」「叫」「请」とは異なる点として、積極的に働きかける使役動詞ではありません。ある出来事が原因で自然とある結果がもたらされるものを表します。
結果は非動作的なもので、何らかの状態・変化・心理活動を指します。多くの場合、結果として「使」の後にくる事態が発生する場合に用いられ、具体的な動作を表現するのには用いられません。
「让」「叫」「请」は意図的であるのに対し、「使」は意図的ではありません。
zhè cì de shī bài shǐ wǒ shī qù le xìn xīn.
这次的失败使我失去了信心。
今度の失敗で私は自信を失いました。
上の例文の場合、「失敗」が原因となり、それにより「自信を失う」という結果が引き起こされています。また、失敗は自分から意図的に引き起こしたものではありません。
「给」と「让」の違い
「给」は「…させる」「…することを許す」の意味を表します。上記の「让」や「叫」の用法に近いです。
gěi wǒ kàn yī xià
给我看一下。
私に見せてください。
「让」の用い方と比較してみましょう。上の例文の「让」を「给」に置き換えてみます。
ràng wǒ kàn yī xià
让我看一下
私に見せてください
とてもよく似ていますね。違いを挙げると「给」の方は、見せてほしいと思うものを実際に手渡して見せるニュアンスになります。
qǐng gěi wǒ kàn yī xià nín de shēn fèn zhèng
请给我看一下您的身份证。
身分証を見せてください。
この場合も「给」を「让」に置き換えても問題ありませんが、「给」を用いると相手の身分証を手渡してもらって見せてもらうニュアンスになります。そのため「给」を用いる場合には「…することを許す」の意味が強くなります。
感情を表す使役文「令」
「令」には「~させる(ある原因で何らかの感情を変化させる、使より文語的)」という意味があります。
「使」と同様、意図的に人を行動させるのではなく、ある原因で何らかの感情の変化が引き起こされた時に使います。そのため「令」の後ろには感情や気持ちを表す言葉が置かれます。
tā de yǎn jiǎng lìng wǒ gǎn dòng
她的演讲令我感动。
彼女のスピーチは私を感動させました。
「令」とともに存在する言葉(兼語)は「人」を指す言葉に限ります。人あるいは人の感情を表す言葉と一緒に使われます。
注意点として「令」の後に、程度副詞の「很」は使用できません。 以下は間違った文法です。「令」の後に「很」が用いられていることに注目してください。
tā de yǎn jiǎng lìng wǒ hěn gǎn dòng
她的演讲令我很感动
注意していないと、うっかり間違った中国語を話してしまいます。
「令人」は慣用表現や決まった表現で使われることが多いので、よく用いられるフレーズをそのまま覚えてしまいましょう。
令人感动 | lìng rén gǎn dòng | 人を感動させる |
令人高兴 | lìng rén gāo xìng | 人を喜ばせる |
令人满意 | lìng rén mǎnb yì | 人を満足させる |
令人生气 | lìng rén shēng qì | 人を怒らせる |
令人失望 | lìng rén shī wàng | 人を失望させる |
令人痛苦 | lìng rén tòng kǔ | 人をつらくさせる |
令人尊敬 | lìng rén zūn jìng | 人に尊敬させる |
令人厌倦 | lìng rén yàn juàn | 人をうんざりさせる |
令人佩服 | lìng rén pèi fu | 人を敬服させる |
令人尴尬 | lìng rén gān gà | 人を困らせる |
「令人」は慣用句として覚えてしまった方が効率がよいです。上の表を参考に直接覚えてしまいましょう。
使役の疑問文と否定文
使役の疑問文
使役の疑問文の場合は文末に「吗」をつけるか、「要不要」(yào bù yào)のように反復疑問の形にします。
【「吗」をつけた例文】
zhè ge yè wù ràng tā zuò ma?
这个业务让他做吗?
この業務は彼にさせますか?
【反復疑問文の形式の例文】
zhè ge yè wù yào bù yào ràng tā zuò ?
这个业务要不要让他做?
この業務は彼にさせますか?
否定文の形成
使役の否定文の場合は「让」や「叫」の前に「不」を置きます。使役の否定形をつくるには使役動詞の前に否定語を置きます。
zhè ge yè wù bù ràng tā zuò
这个业务不让他做。
この業務は彼にはさせない。
zhè huà bìng bù shǐ rén gǎndào yì wài
这话并不使人感到意外。
この話はなんら人に意外であるとは感じさせない。
検定試験では受け身構文や使役構文のような特殊な語順の不定文の語順がよく出題されるため、試験を受ける予定の方はよく復習するようにしておくとよいでしょう。
それぞれの使役動詞の違い
それぞれの使役動詞の違いを一文でまとめてみました。もちろんこれらの意味は一文に限定できませんが、使役動詞の特徴を理解するのに役立ちます。
- 「让」:使役動詞の基本形
- 「叫」:「让」よりも命令口調
- 「请」:目上の人にお願いするとき用いる
- 「使」:意図的でないことに対して用いる
- 「给」:許可を求めるときに用いる
- 「令」:人の感情に対して用いる
使役の働きをする他の動詞
使役動詞以外にも使役の働きをする動詞がいくつかあります。代表的な動詞を例文と一緒に紹介します。
「劝」(quàn;勧める)
wǒ quàn nǐ bǎ jiǔ jiè diào
我劝你把酒戒掉。
酒をやめるように勧める。
「派」(pài;派遣する)
zǒng bù yǐ jīng pài le liǎng gè rén chū chāi
总部已经派了两个人出差。
本社はすでに二人の者を出張させた。
「要求」(yāo qiú;要求する)
yāo qiú tā rén bú yào tài kē kè
要求他人不要太苛刻。
他人に過酷な要求をしてはならない。
「求 」(qiú;頼む)
qiú nǐ bāng wǒ dǎ gè guó jì diàn huà
求你帮我打个国际电话。
国際電話をかけていただきたいのですが。
まとめ
今回は中国語の使役文について紹介しました。中国語の使役文は日本語と異なるために最初は難しく感じるかもしれませんが、ポイントさえ抑えれば確実に修得できます。
まずは「让」を徹底的にマスター!その後、徐々にそのほかの使役動詞の用い方を覚えるようにしましょう。
使役文を使いこなせると中国語のレベルが飛躍的に向上します。すでにある程度中国語を話せるようになっている方も、現状に満足せず全ての使役動詞を使いこなせるように努力してみてください。