喉の痛み・口内炎・鼻血・便秘・下痢・疲労感・肩こりなど、体のどこかが不調な時、中国人がよく使うのが「上火」という言い回しです。
ありとあらゆる症状を「それは上火だね」と言われてしまうと、結局「上火」って何?と思ってしまいます。
中国の健康観念「上火」を徹底解説
目次
中国の「上火」とは何か?
上火 (shàng huǒ)
「上火」を辞書で調べると「のぼせる」と出てきます。また「便秘、または鼻腔・口腔などの炎症をさす」とも出てきますが「上火」は正式な病名ではありません。
中国では「中医」(zhōng yī)と呼ばれる中国医学が広く受け入れられており、「上火」はこの中国医学の観点から派生してできた言葉です。
「中医」とは?
中国では中国伝統医学を「中医」(zhōng yī)とし、西洋医学を「西医」(xī yī)として区別をしています。
中国伝統医学とは、漢民族が用いてきた医学のことを指します。中国国内の他の少数民族、例えばチベット族やウイグル族などが用いてきた医療は含まれません。
中国国内には「〇〇中医院」という呼び名の病院が数多く存在しています。読んで字のごとく、中国の伝統的医学に基づいた治療を専門的に行う病院のことです。
「中医」のおもな治療方法
中医は自然と調和する治療をすることを核としています。そして、主に体の外から施術する外治法と服薬をする内治法があります。
外治法にはつぼの刺激・鍼灸・中国式マッサージなどが挙げられます。内服薬には、生薬治療や中成薬などがあります。治療の必要に応じて外治法、内治法あるいは両方同時に施される場合もあります。
「中医」と「西医」
現代の中国においては、西洋医学も中国伝統医学も両方とも受け入れられています。西洋医学も中国伝統医学にもそれぞれ独自のメリットがあるとされているため、それぞれの良いところを生かし、最も身体に合った治療方法を見つけることが重視されています。
上火が日本人に理解されにくい理由
日本では西洋医学が広く受け入れられています。中国伝統医学も受け入れられていないわけではありませんが、比率でいえば圧倒的に西洋医学の方が多くなっています。
そうした背景からか、中医に関する考え方や用語等がほとんど理解されていません。上火も中医由来の言葉であるため、日本ではほとんど認知されていないのです。
中医の考え方は西洋医学と非常に異なるものであるため、中医の医療用語を説明したり、他の言語の対応する言葉を探すのが非常に困難になっています。
そのため、ここでは上火に関する中国語の説明文を参考にしながら紹介します。
「上火」の症状
shàng huǒ de zhèng zhuàng yǒu qīng yǒu zhòng,cháng jiàn de zhòng zhèng shì zhòng shǔ,
上火的症状有轻有重,常见的重症是中暑,
上火の症状は軽いものも重いものもあります。よく見られる重い症状が暑気あたりです。
ér tōng cháng shuō de shàng huǒ yī bān bǐ jiào qīng zhèng,
而通常说的上火一般比较轻症,
逆に普通に使う上火とは比較的軽い症状をいいます。
shì yīn wèi gōng zuòyā lìdà、jīng cháng áo yè、chī là shí wù děng,
是因为工作压力大、经常熬夜、吃辣食物等,
仕事のストレスが大きかったり、しょっちゅう徹夜をしたり、辛い食品を食べたりなどが原因で、
dǎo zhì rén de shēn tǐ yīn yáng shī tiáo yǐn qǐ de yī zhǒng wài zài biǎo xiàn
导致人的身体阴阳失调引起的一种外在表现。
人体の陰陽のアンバランスを引き起こし、それが表面に現れるのです。
「上火」とは身体のバランスが崩れること
簡単にいえば「体の内部に熱を持つことによって現れる症状」のことを上火と呼ようです。
中国医学の基本的な考え方では、人間の体にはプラスとマイナスの力が働いています。このプラスとマイナスは陰と陽と呼ばれ、この陰陽のバランスを保つことが大切とされます。
体内には目に見えない火のような熱があり、その火が陽に傾く、つまり強くなり過ぎて体内に熱がこもり、様々な器官に炎症が起きた状態が上火です。
上火の主な症状として喉の痛み・歯の腫れ・吹き出物・口の中が乾く・不眠・口内炎等が挙げられます。体が上火の状態になっていると体に熱がこもり、体のバランスが取れていない状態なので、その熱を下げてバランスを取らなければならないということです。
その火を下げることを「降火」(jiàng huǒ)と呼びます。人によっては降火を「去火」(qù huǒ)という場合もあります。
季節ごとの「上火」の特徴
中国人は普段の会話でよくこんな事を言います。
qiū jì gān zào ài shàng huǒ
秋季干燥爱上火
秋は乾燥しており上火しやすい
このように、ある特定の季節には容易に上火しやすいと表現します。ではどの季節が一番「上火」しやすいのでしょうか?中国人の意見を聞いてみましょう。
春:春の特有の症状と上火の関係
chūn tiān wèi shén me róng yì shàng huǒ?
春天为什么容易上火?
春はなぜ上火しやすいのでしょう?
shì yīn wèi chūn tiān qì hòu duō biàn,jí bìng yì fā,
是因为春天气候多变,疾病易发,
なぜなら春は気候の変化が激しく、疾病を発症しやすいのです。
chūn kùn、kǒu bí gān zào、biàn mì děng zhèng zhuàng,zài mín jiān bèi chēng zuò shàng huǒ。
春困、口鼻干燥、便秘等症状,在民间被称作上火。
春のけだるさ、口鼻の乾燥、便秘などの症状を民間では上火と呼んでいます。
夏:夏の暑さと上火のリスク
xià tiān róng yì shàng huǒ shì yīn wèi xià tiān wēn dù gāo、shī qì hěn zhòng,
夏天容易上火是因为夏天温度高、湿气很重,
夏に上火しやすいのは気温と湿度がどちらも高くなり、
ràng rén chǔ yú fā mēn zhuàng tài,mēn rè huò zào rè,dōu huì yǐng xiǎng dào shēn tǐ huǒ qì fā xiè,
让人处于发闷状态,闷热或燥热,都会影响到身体火气发泄,
人が蒸し暑い状態に置かれるからです。蒸し暑さ、乾燥した暑さのいずれも体ののぼせを引き起こします。
xià tiān jīng cháng shàng huǒ duì shēn tǐ huì zào chéng hěn dà yǐng xiǎng。
夏天经常上火对身体会造成很大影响。
夏に絶えず上火すると体に対して大きな負荷をかけてしまいます。
秋:秋の乾燥と上火の関連性
qiū tiān rén róng yì shàng huǒ。
秋天人容易上火。
秋になると上火しやすくなります。
shì yīn wèi,qiū jì zǎo wǎn wēn chā jù lí de biàn huà hěn dà,kōng qì yòu zào yòu lěng,
是因为,秋季早晚温差距离的变化很大,空气又燥又冷,
というのも秋は朝晩の温度差の変化が大きく、空気は乾燥し、冷たくなっていきます。
zhè ge jì jié shì rén tǐ cóng xià jì dào dōng jì de yī ge shì yìng guò chéng,
这个季节是人体从夏季到冬季的一个适应过程,
体も夏から冬へ慣れていく時期ですが、
bù néng bǎo chí xīn chén dài xiè de píng héng hé wěn dìng,cóng ér dǎo zhì shàng huǒ。
不能保持新陈代谢的平衡和稳定,从而导致上火。
新陳代謝のバランスと安定を保つのが難しく、上火を起こしてしまうのです。
冬:冬の寒さと上火の症状
xǔ duō rén yǐ wéi xià tiān cái róng yì shàng huǒ,
许多人以为夏天才容易上火,
大抵の人は夏に上火しやすいと思っていますが、
qí shí,qì hòu hěn lěng de dōng jì shì shàng huǒ de wàng jì。
其实,气候很冷的冬季是上火的旺季。
実は気候が大変寒い冬こそ上火になる人が多いのです。
yī shì rén men yī bān zuò zài kāi zhe nuǎn qì de shì nèi。
一是人们一般坐在开着暖气的室内。
一つ目に人は大抵暖房のきいた部屋の中にいます。
ér shì zài yǐn shí fāng miàn,yīn wèi dōng tiān hán lěng rén men xǐ huan chī běn shēn piān wēn de shí pǐn,
二是在饮食方面,因为冬天寒冷人们喜欢吃本身偏温的食品,
二つ目は食事についてです。冬の寒さのために多くの人が本来温性の食品ばかりを好んで食べてしまいます。
bǐ rú niú yáng ròu lái yù hán,zài jiā shàng jiāng、cōng、suàn、là jiāo děng xīn là pèi liào,
比如牛羊肉来御寒,再加上姜、葱、蒜、辣椒等辛辣配料,
例えば牛肉や羊肉を食べて温まろうとします。更にショウガ、ネギ、ニンニク、トウガラシなど刺激性の強い調味料を加えるため、
rén tǐ róng yì jī rè ér bù róng yì sàn fā。
人体容易积热而不容易散发。
体は熱を蓄えても発散しにくくなります。
結局、どの季節にも体調を崩しやすい原因があるのですね。機会があればぜひ中国の方に上火について尋ねてみましょう。きっといろんな健康情報を教えてくれるでしょう。
「上火」対策にも役立つ「医食同源」の考え方
中国には「医食同源」(yī shí tóng yuán)という言葉があります。その意味は、医学と食物は同じところに源を発するので、健康管理を食事から考えるという観点です。
上火の場合は、体内に熱がこもっている状態なので、熱を下げる食物を摂取していけばバランスを保つことができるわけです。
熱を下げる食べ物
では、どういった食べ物が熱を下げるのでしょうか?
中国で熱を下げる食べ物のことを「凉性食物」(liáng xìng shí wù)といいます。「寒性食物」(hán xìng shí wù)という言い方もあります。
中国には「緑豆」(lǜ dòu;リョクトウ)という小粒の豆があり、夏になると「緑豆」を使ったアイスがとてもよく売れています。「緑豆」が熱を下げるといわれるので、熱を下げる食品と冷たいアイスを用いて相乗効果が期待できるわけです。
凉性食物に対する日本人の理解
この体を冷やす食材という考え方は日本でも広く知られています。日本には古くから「秋茄子嫁に食わすな」という諺がありますね。
茄子は毎年6月から9月の間に収穫します。秋ごろに収穫された茄子は夏の間に収穫された茄子よりも水分を多く含んでいて、甘味やうまみが強いといわれています。しかし、茄子は体を冷やす作用があるので、大切な嫁の体を冷やしてはいけないという気遣いから、この諺ができたといわれています。
そのほかの凉性食物
他にも、凉性食物といわれる食べ物にはこのようなものがあります。
- 西瓜(xī gu):スイカ
- 冬瓜(dōng guā):トウガン
- 苦瓜(kǔ guā):ゴーヤ
- 芹菜(qín cài):セロリ
- 青菜(qīng cài):チンゲン菜
- 黄瓜(huáng guā):キュウリ
- 豆芽(dòu yá):もやし
熱を上げる食べ物
当然、体を温める食材もあります。これらの食材のことを「热性食物」(rè xìng shí wù)といいます。「温性食物」(wēn xìng shí wù)ということもあります。「热性食物」には以下のものが含まれます。
- 鸡肉(jī ròu):鶏肉
- 猪肉(zhū ròu):豚肉
- 鱼(zhū ròu):魚
- 虾类(yú, xiā lèi):エビ
- 芝麻(zhī ma):ごま
- 芥末(jiè mò):からし
- 豆腐(dòu fu):豆腐
- 花生(huā shēng):落花生
多くの中国人の方は、どの食材が体を温め、どの食材が体を冷やすかとを理解しています。自分の体調に応じて、食べるべきものと食べるべきでないもの見分けています。
まとめ
今回は中国でとてもよく用いられる言葉である上火について紹介しました。
上火は中国伝統医学から派生した言葉なので、中医についても簡単に紹介しましたが、その過程で漢民族が長い時間をかけて人体と自然の仕組みを探究してきた様子を垣間見ることができました。
中国には私たちが知らない知識がまだまだたくさん詰まっています。中国語の勉強をしていると、本当に多くのことを知ることができますし、中国文化に対する敬意が深まりますね。